Research Abstract |
この研究の目的は,一軸性ひずみ法によって望みの方向にだけ結晶の格子を圧縮し,有機超伝導体の結晶構造と電子構造を制御することにより,超伝導状態とこれをめぐるさまざまな電子状態の関係を究明することである。 昨年度までに調べたα-(BEDT-TTF)_2XHg(SCN)_4(X=K, NH_4)とθ-(BEDT-TTF)_2CsZn(SCN)_4に加えて,新たにα-(BEDT-TTF)_2CsCd(SCN)_4およびβ-(BEDT-TTF)_2CsCd(SCN)_4の単結晶を作成することに成功した。それらへの一軸性圧縮効果,および東京都立大学のグループとの共同でβ"-(DODHT)_2PF_6の静水圧下電気伝導に対する磁場効果を調べた。これらにより,α,θ,β型塩の電子状態を統一的に理解する見通しを得た。 また,有機超伝導体β"-(BEDT-TTF)_2SF_5CH_2CF_2SO_3への一軸性歪みの効果を調べた。本物質は常圧下で約5Kの超伝導転移温度(Tc)をもつ3/4-filled電子系であるが,一軸性歪みを伝導面内のb軸方向へ加えると,低圧側ではTcが一旦上昇し,さらに歪みを加えると減少する事が分かった。これ以外の方向への圧縮は超伝導をおおむね抑制することがわかった。この結果から,超伝導相の近傍に非金属相が存在する事が示唆された。 超分子有機伝導体の開発では,昨年度までに合成した含ヨウ素ドナー分子についてカチオンラジカル塩の作成を行い,ヨウ素結合のネットワークにより二次元的な新しい超分子構造が構築されることがわかった。また,BEDO-TSeFの合成では,BO分子内側のTTF骨格をTSeFへと置換した未知のドナー分子であるBEDO-TSeFについて,猛毒のCSe_2,H_2Seのいずれも全く使用せず安全に合成する方法を開発した。
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