2002 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
14320028
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
大芝 亮 一橋大学, 大学院・法学研究科, 教授 (50168910)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田中 孝彦 一橋大学, 大学院・法学研究科, 教授 (10236599)
納家 政嗣 一橋大学, 大学院・法学研究科, 教授 (50172581)
野林 健 一橋大学, 大学院・法学研究科, 教授 (80097857)
山田 敦 一橋大学, 大学院・法学研究科, 助教授 (40293146)
前田 眞理子 一橋大学, 大学院・法学研究科, 助教授 (40303036)
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Keywords | 歴史認識 / 記憶 / 戦争 / ナショナリズム |
Research Abstract |
歴史の記憶が国際関係に及ぼす影響について考察するために、研究会のメンバーおよびメンバー以外の研究者・実務家による報告を中心とする研究活動を行った。これまでの研究会での主要テーマは以下のとおり。 (1)歴史の記憶がアジア太平洋地域の国際関係にいかなる影響を及ぼすかについて問題設定を行った。この地域の国際関係の特徴は、経済的交流の拡大による利益の共有、また韓国・台湾をはじめとする民主化の進展による価値の共有も進みつつあるにも関わらず、歴史認識についてはいっこうに進展していないことである。これが地域統合の進展する欧州との相違である。今後は、利益共同体、価値共同体、そして歴史認識共同体という3つの概念を提示して、実証的な分析を進めていく必要性が議論された。 (2)原爆投下をめぐる日・米・中・韓の記憶について、各国の教科書における原爆投下の記述を比較検討し、その相違がもたらされる背景を考察した。原爆投下をめぐる記憶の違いについて、どの記憶が良いかどうかを問題にするのではなく、その背後にある記憶の構成要因を細かく分析していくことが必要であり、その作業が将来の平和へと貢献できるものになるだろうとの意見が述べられた。 (3)過去の戦争がどう記憶されるのかについて検討を行った。記憶には、何が記憶され何が忘却されるのかという記憶の競合という問題があり、それは時期によって異なり、また、戦争の勝敗によっても左右される。このように記憶はナショナリズムと同様、イデオロギー的な側面があるため客観的に捉えていく必要があり、どの記憶が正しいのかではなく、いつ、どのように語られるのかを観察する必要がある。 (4)「帝国」論議とグローバル・ヒストリーについてである。現在のアメリカは「民主的帝国」と表現することができる。このような背景には、アメリカの国内問題や強大な軍事力、国際政治の多中心的構造や、戦争の記憶の利用などが指摘できる。しかしながら、経済面に焦点があった80年代には覇権という概念が用いられたのと同様、現在は軍事面にあるため「帝国」という概念が使用され、言葉が一人歩きして様々なイメージをもたらしているという側面もある。こうした帝国として国際秩序を見る見方は、グローバル・ヒストリーという視点を生むのだろうか、という問題について議論が行われた。 上記の月例研究会にくわえ、ソウル大学のWookhee Shin準教授による韓国側の視点、カンボジアNGOで活動する栗本英世氏のカンボジアでの紛争の記憶形成の現状、そして、国際協力事業団による復興支援活動における歴史認識と和解問題などについてセミナーを開催した。
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Research Products
(13 results)
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[Publications] 大芝 亮: "記憶から復興へ-紛争地域における復興支援と自治体の役割"広島県・総合研究開発(NIRA)合同研究報告書. 第1章-第2章. (2002)
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[Publications] 納家 政嗣: "人間・国家・国際社会と安全保障概念"国際安全保障. 第30号1,2号. 52-65 (2002)
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[Publications] 納家 政嗣: "大規模テロと国際政治"国際問題. 第505号. 52-65 (2002)
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[Publications] 田中 孝彦: "9・11テロと世界秩序における抑圧の構図-ヒューマニティの蹂躙を超えて"法律時報. 第74巻6号. 32-38 (2002)
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[Publications] 山田 敦: "反グローバリゼーションの諸位相"一橋法学. 第1巻2号. 406-423 (2002)
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[Publications] 山田 敦: "アメリカ/勢いを増す経済超大国のFTA戦略"アジ研ワールド・トレンド. 第89号. 24-27 (2003)
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[Publications] 前田 眞理子: "「テロ後」とフェミニズムの論理-誰のための、何のための開放か-"法律時報. 第74巻6号. 44-49 (2002)
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[Publications] 大芝 亮(共編): "記憶としてのパールハーバー"ミネルヴァ書房(未定). (2003)
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[Publications] 細谷 千博(共編): "記憶としてのパールハーバー"ミネルヴァ書房(未定). (2003)
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[Publications] 石井 修: "パールハーバーの残像,記憶としてのパールハーバー"ミネルヴァ書房(未定). (2003)
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[Publications] 滝田 賢治: "『国民国家』アメリカにおけるヴェトナム戦争の公的記憶,記憶としてのパールハーバー"ミネルヴァ書房(未定). (2003)
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[Publications] 野林 健(編著): "国際政治経済学入門(新版)"有斐閣. 316 (2003)
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[Publications] 田中 孝彦(共編著): "日英交流史 1600-2000 第1巻、第2巻"東京大学出版会. 1-343,2-373 (2002)