Research Abstract |
本研究は,理論・実験の両側面から,自主流通米価格形成センター方式の入札市場における価格形成メカニズムの意味を解明し,コメの実勢需給をより反映できる代替市場制度を提案することを目指すものである。 コメ市場は銘柄米ごとに,1人の売り手(農協)に多数の買い手が入札する,売り手独占体制である。また,買手の多くはコメ卸業者であり,売り手買手ともに市場における常連である。したがって参加者は互いの状況に関する情報を持っており,その情報の質はかなり確実であると考えてよい。通常そのような市場は,完備情報ゲームとして分析するのが適当である。さらに,このような売り手独占市場では,通常では独占価格が設定され効率性が損なわれると考察される。理論研究においては,完全完備情報ゲームの枠組みにおけるコメ入札市場モデルを構築し,その均衡の特性を分析した結果,コメ価格設定ルールの特性により,売り手買い手双方の戦略的意思決定の結果,そこでは独占価格・独占販売量以外の配分に導く多くのナッシュ均衡が存在することがわかった。さらに,完全均衡概念を用いて精緻化し抽出した均衡における配分は,競争均衡に近い配分を達成することがわかった。加えて,実際のコメ市場では,売り手の指値に関して,過去の指の実際値に依存した制限ルールが存在する。このルールによって,ナッシュ均衡解においても競争均衡に近い配分が実現される可能性があることがわかった。以上の理論分析を基に,今年度では市場実験ソフトの更なる改定を付し,本実験を数回行った。本実験においても,上記理論に整合的な結果が観察され,コメ入札市場における約定価格下落が懸念されているが,むしろこれは適正価格(=競争均衡価格)への収歛過程における下落傾向である可能性が強いことが判断できる。 一方コメ入札市場との比較対象としての第二価格入札市場における分析では,勝者と敗者との心理的な側面に着目し,完備情報下での第二価格入札市場では通常の入札行動とは異なる行動が生じることが示される。また一般的に第二価格入札と競りとの同値性にも疑問が生じた。この点についての実験研究も継続している。 学会主催:国内では第9回を数える実験経済学コンファレンスは,今年,実験経済学の世界組織ESA(本部アリゾナ大学)の公認を受けた第1回目のコンファレンスとして,本研究代表者が所属する信州大学で主催した。 口頭発表:上記の暫定的な成果を,ソウル大学でのthe Asian the Asian decentralization conference(5月),信州大学での第9回実験経済学コンファレンス,逗子で開催された学術振興会主催の日米先端化学シンポジウム(12月),香港科学技術大学でのInaugural Asia-Pacific Meeting of Economic Science Association(1月),大阪大学における第9回実験経済学コンフエレンス(11月)で発表した。
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