2003 Fiscal Year Annual Research Report
鉄スピンクロスオーバー錯体結晶における光誘起相の構造と生成ダイナミクスの解明
Project/Area Number |
14340092
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
田中 耕一郎 京都大学, 大学院・理学研究科, 助教授 (90212034)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
白井 正伸 京都大学, 大学院・理学研究科, 助手 (30303803)
永井 正也 京都大学, 大学院・理学研究科, 助手 (30343239)
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Keywords | 光誘起相転移 / スピンクロスオーバー / 赤外ラマン散乱 / 赤外吸収 / 構造相転移 / 自発的対称性の破れ |
Research Abstract |
鉄スピンクロスオーバー錯体結晶の光誘起相の構造を明らかにするために、光照射下での低温X線回折の実験を行うと共に、ソフトなモードの詳細を調べるため、通常のFTIRによる遠赤外分光およびフェムト秒レーザーをベースとしたTHz波(遠赤外線)分光をおこなった。 (1)X線回折による光誘起相の構造研究 これまでのピコリルアミン系の振動分光、X線吸収分光の結果から、(1)スピンを担う鉄の最近接構造は熱的に誘起した相と同じであること、(2)その周りに配位した分子の構造が結晶の反転対称性を破るように変形していることがあきらかになっていた。今回、詳細な単結晶X回折実験をおこなった。その結果、低温で生成される光誘起高スピン相の空間は高温での高スピン相のそれと完全に一致しており、格子定数も温度変化の範囲内にあることがわかった。このことから、光誘起相の平均構造は熱誘起相のそれと全く同じであり、ラマン散乱で観測された反転対称性の破れは平均構造からの局所的な乱れとして理解される。また、X線回折光をモニタしながら光誘起相の緩和過程をしらべ、低スピン相が光誘起相の中に形成されていく過程を明らかにした。 (3)THz波(遠赤外)分光 SPRING-8の顕微赤外分光システムをもちいて、単結晶の赤外スペクトルを詳細に調べると共に、これまで測定できなかった遠赤外域の振動スペクトルを明らかにした。基本的に、光誘起効果はペレットサンプルで得られたこれまでの結果と一致した。単結晶サンプルであることから、光誘起相の緩和過程を詳細に調べることが可能になった。来年度もこの実験を継続しておこない、ダイナミクスを振動モードの目から見て明らかにする予定である。また、フェムト秒レーザーをベースとしたTHz波(遠赤外線)分光もおこなった。これは、SPRING-8の測定範囲の更に低波数側の領域に当たっている。低温相で非常におおきなスペクトル変化が観測された。これは、水素結合に関する何らかの情報を担っていると考えられる。 (3)他のスピンクロスオーバー系の振動分光 ピコリルアミン系よりヒステリシスの大きな系、2段階転移をする系の振動分光、およびその光照射効果の測定を始めた。ヒステリシスの大きな系では光誘起相の振動スペクトルは高温の高スピン相のそれと一致したが、2段階転移の系では、高スピン相とは異なる振動スペクトルが得られた。
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Research Products
(3 results)
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[Publications] Nolwenn Huby, Laurent Gue'rin, Eric Collet, Loic Toupet, Jean-Claude Ameline, Herve' Cailleau, Thierry Roisnel, Takeshi Tayagaki, Koichiro Tanaka: "Photoinduced spin transition probed by x-ray diffraction"Physical Review B. 69. 020101(R) (2004)
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[Publications] Takeshi Tayagaki, Koichiro Tanaka, Hidekazu Okamura: "Modification of vibrational selection rules in the photoinduced spin-crossover phase"Physical Review B. 69. 064104 (2004)
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[Publications] Hirouiki Ohyanagi, Takeshi Tayagaki, Koichiro Tanaka: "Photo-induced phase transitions probed by X-ray absorption spectroscopy : Fe(II) spin crossover complex"Journal of Physics and Chemistry of Solids. (in press). (2004)