2004 Fiscal Year Annual Research Report
4成分Dirac型電子相関理論:励起状態と磁気化学への展開
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14340179
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
波田 雅彦 東京都立大学, 理学研究科, 教授 (20228480)
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Keywords | 相対論的効果 / 励起状態 / 磁気化学 / CDスペクトル / 旋光強度 / NMR化学シフト / ジカルコゲン / 生体酵素モデル錯体 |
Research Abstract |
開発を進めてきた相対論効果を含めた2成分型の計算方法を使って、以下の2テーマについての研究が進展したので報告する。(1)のCDスペクトルは電場-磁場の関与する典型的な分子物性であり、(2)の金属NMRには相対論が重要である。4成分型相対論の方法に関する進展、及びその応用については来期に報告する予定です。 (1)ジカルコゲン化合物のCDスペクトルの解析 ジフェニルジカルコゲン,(C6H6)-Ch-Ch-(C6H6),Ch=S,Se,Te,は溶液中で直ちにラセミ化するが、結晶状態では旋光角度およびCDスペクトルが観測される。しかしながら、Ch=S,Se,Teに応じてCD強度(旋光強度)が増加する特徴的な低エネルギー側ピークの帰属を初めとして、殆どの旋光強度ピークの帰属が不明であった。そこで我々は、高精度な励起状態の波動関数とエネルギーを与えるSAC-CI法を用いて、これらの化合物の励起エネルギーとCDスペクトルを計算した。その結果、低エネルギー側の第1ピークはCh-Chのσ-σ*三重項状態、第2ピークが最低一重項状態であると帰属した。この結果は、Ch=S,Se,Teの順に第1ピークの旋光強度が増加するという観測結果を、スピン-軌道相互作用の観点から合理的に説明する。また、旋光強度の±符合も実験スペクトルを再現した。次に、これらの化合物の旋光角度を計算し、旋光角度が主としてカルコゲンのσ軌道とσ*のエネルギー差で決まることを示した。この結果は旋光角度のカルコゲン依存性の説明を与える。 (2)生体酵素をモデルとした金属錯体のNMR化学シフトの解析 生体酵素反応に関与する種々の金属錯体の配位子環境を観測するために、金属に配位したCOやO2などの小分子をNMRで観測する研究がなされている。本研究ではCr2+,Fe2+,Cu+,Zn2+を対象として金属カルボニルイミダゾール錯体におけるカルボニルのC-13NMR化学シフトを計算し、その金属依存性を検討した。カルボニル炭素の核磁気遮蔽は金属のd-d遷移によって発生する。即ち、金属とカルボニルにはd-π*の相互作用が存在しており、d-d遷移はこの結合性軌道を通して、炭素のp-軌道を回転させ、炭素核上の遮蔽を発生させる。炭素自身のπやσ軌道は炭素核の遮蔽の変化(化学シフト)に殆ど寄与していない。この知見によって、Cr2+,Fe2+,Cu+,Zn2+に配位したカルボニル炭素の化学シフトが合理的に説明できた。即ち、全てのd-軌道が占有されているCu+,Zn2+では上述の効果が小さいためC-13は高磁場シフトし、dπ-軌道のみが占有されているCr2+ではd-d遷移の寄与が大きいため、底磁場シフトする。この結果は実験の傾向をよく再現している。
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