2003 Fiscal Year Annual Research Report
オオタバコガの体眠性の地理的変異と遺伝子発現に関する生態遺伝学的研究
Project/Area Number |
14360028
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
藤崎 憲治 京都大学, 農学研究科, 教授 (10228976)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
吉田 英哉 岡山大学, 資源生物科学研究所, 助手 (90220665)
積木 久明 岡山大学, 資源生物科学研究所, 教授 (60033255)
|
Keywords | オオタバコガ / タバコガ / 休眠蛹 / 低温耐性 / トレハロース / 地理的変異 / 亜熱帯個体群 / 気候適応 |
Research Abstract |
今年度に得られた研究実績は以下のように要約される。 (1)オオタバコガの亜熱帯個体群(沖縄個体群)と温帯個体群(新潟個体群)の休眠性を比較した結果、亜熱帯個体群では変温変日長条件下で休眠がほとんど誘導されなかったのに対して、恒温一定日長条件下では高い割合で誘導されることが分かった。このことは、本種の亜熱帯個体群が休眠機構そのものを有していないことではなく、変温変日長条件下での休眠誘導が温帯特有のものであることを示唆した。また、休眠の深度は変温変日長条件下で誘導される場合の方で深いことも分かった。これらのことから、オオタバコガの休眠性においては明確な地理的変異が存在し、温帯個体における休眠は、気温の低下が急速な温帯の秋季に対応したものであることが示唆された。 (2)短日から長日への変更実験の結果、日長の主要な感受期は5齢前半(摂食期間)であり、3齢と4齢にも日長に対して応答性を持つことが明らかとなった。また、長日から短日への変更実験の結果からも、蛹の休眠は5齢前半までに決定され、5齢後半(摂食をやめた後)の日長は影響がないことが示唆された。 (3)オオタバコガの休眠蛹と非休眠蛹の低温順化実験の結果、非休眠蛹は冬季の気温が低い地域では越冬できないと思われたが、休眠蛹は冬季の低温によく耐えて少なくとも東北地方の南部までは越冬可能と推定された。 (4)本種蛹の低温耐性には、他の昆虫でよく知られているグリセロールではなくトレハロースの蓄積によると考えられた。また、グルコースは、耐寒性に直接関与していないと考えられた。 (5)タバコガの温帯個体群(滋賀個体群)は比較的高温でも短日処理により休眠が誘導されたが、亜熱帯個体群(沖縄個体群)は変温変日長条件下でもほとんど休眠が誘導されなかった。 (6)温帯への気侯適応に関して、オオタバコガはタバコガには劣るが、明確な地理的変異が検出されたことから、ある程度の適応がなされているものと考えられた。
|