Research Abstract |
脊椎動物のうちでも鳥類と哺乳類では,肋骨が胸部にのみ限局している.これは椎骨と肋骨の原基である体節中胚葉が頭尾軸に沿って部域特異的な発生をするためである.本研究では,これまでに,肋骨原基,特にその部域差を担うと考えられる遠位肋骨の原基を同定し,その形成機構を分子的に明らかにするために,遠位肋骨原基に特異的に発現する遺伝子を探索してきた.その結果,scleraxisとγ-F-crystalin binding proteinが遠位肋骨原基と考えられる部分に限局して発現し,また表皮外胚葉の除去によりそれらの発現低下が見られることから,(表皮外胚葉を除去すると遠位肋骨の欠損が起きる)これらの遺伝子が遠位肋骨の形成に関わっている可能性がある.この区画はTabinらのいうシンデトーム(2003)に相当する.しかし,彼らによれば,シンデトームは骨の原基ではなく腱の原基であるという.さらに詳細な発生運命地図を作らねばならない. しかし,一方で,本来椎骨になるはずの椎板内側領域を皮筋板近傍に移植すると遠位肋骨を形成するようにその発生運命を変換することが明らかになった.すなわち,肋骨原基がどこであるかと言うことは,体節中胚葉をとりまく表皮,また肋骨原基とされる椎板と隣接する皮筋板と肋骨原基との間の相互作用が大きく影響しているのである. 以上の結果,また内外の研究状況をふまえ,研究の方向を,まず肋骨原基を同定してからその発生を調べるのではなく,組織間相互作用そのものを検討することを中心にすべきであるという結論に達した.肋骨原基の細胞系譜はひとまず棚上げにしておいて,組織間相互作用の結果として,肋骨形成の「場」が生じると考えるのである. 当初の研究計画に挙げていた,遠位肋骨形成に関与していると考えられる遺伝子の強制発現/抑制実験から,その遺伝子の機能を探ろうとする試みはまだ手をつけていない.今後は,上記の考えにたって上で実施していく予定である.
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