Research Abstract |
Globoid cell leukodystrophy (GLD)は,リソゾーム酵素の一つであるガラクトシルセラミド分解酵素(GALC)の遺伝的欠損による,生として乳児期発症の致死性遺伝性脱髄疾患である。現在,治療法としては一部の症例に骨髄移植が試みられているが,中枢神経系への効果は限られており根本的な治療法はない。我々は遺伝子導入技術を用いて,GALCの生体における必須の活性化たんぱく質であるサポシンAの特異的欠損マウスを作成した。サポシンA欠損マウス(Sap A KO)は,遅発型慢性GLDの病像を呈し,持続的に妊娠したメスのSap A KOは,その神経症状,神経病理所見が劇的に軽く,エストロゲンの投与により,妊娠の脱髄抑制効果をほぼ再現できる事が明らかになった。本研究では,Sap A KOを用いて,妊娠の脱髄抑制効果を明らかにし,遺伝性脱髄疾患に対する新たな治療を見出すことを目的としている。本年度は,まず,Sap A KOのコロニーを徳島大学において確立した。このSap A KO間の交配により,持続的に妊娠状態にあるメスSap A KOを作成し,オス,非妊娠メス、妊娠メスの各Sap A KOの臨床症状,病理学的所見,免疫学的所見を比較検討した。中枢神経系における各種サイトカイン,ケモカインおよび各受容体の発現を,RNAレベルで,性別,妊娠の有無に注目して比較検討した結果,Wild Typeに比してSap A KOの脳では各種サイトカイン,ケモカインおよび各受容体の発現が亢進しており,妊娠メスSap A KOではこれらの発現が有意に低いことが明らかになった。エストロゲンレセプターの免疫染色では,Sap A KOの脱髄領域への浸潤細胞(マクロファージ,マイクログリア)や活性化アストログリアにその発現が確認された。エストロゲンの免疫抑制作用が,妊娠によるSap A KOの脱髄抑制効果の一因である可能性が示唆された。
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