Research Abstract |
【目的】ヒストンアセチル化が肝細胞癌の分化や浸潤転移に及ぼす効果と肝再生に与える影響を明らかにする.【方法・結果】(1)肝細胞癌におけるHDAC発現の意義に関する研究:ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)が予後不良な肝細胞癌症例において高発現しており,癌の増殖,浸潤への関与を認めた.また,HDAC阻害剤TSAを用いて,肝癌細胞株の細胞増殖抑制,形態正常化,apoptosis誘導を認めた. (2)肝再生へのHDAC阻害の影響の検討:SDラットにHDAC阻害剤であるトリコスタチンA(TSA)投与後,70%肝切除を施行することによって,非投与群に比べ術後7日目の肝再生率が有意に高く,BrdU labeling index, mitosis indexも高値であり,さらに肝特異的遺伝子(albumin, glutamine synthetase, glutatione S-transferase π)の発現亢進を認めた. (3)HDAC阻害による肝細胞癌転移抑制・分化誘導と肝再生効果:ヒト肝癌細胞株HepG2,HuH7にTSAを投与した結果,HDAC1の発現の低下とともに,細胞周期停止による細胞増殖抑制と分化誘導を認めた.さらに,cDNAマイクロアレイにて包括的遺伝子解析を行い,特異的に発現する遺伝子を明らかにした.また,ラット70%肝切除後,ラット肝癌細胞株を脾臓から注入することにより肝内への腫瘍多発転移モデルを作成し,TSA投与により肝転移腫瘍数の減少を認めた(非投与14個vs投与1個). (4)HDACアンチセンスのtransfect作製と機能評価:ヒト肝癌細胞株にHDAC1アンチセンスを導入した結果,HDAC1の発現の低下とともに細胞増殖の抑制とアルブミン合成の促進(分化誘導)を認めた. (5)HDAC阻害とCOX:肝癌細胞株において多価不飽和脂肪酸のgamma linoleic acid(GLA)添加培養によりcell viabilityの低下を認め,細胞周期関連遺伝子発現変化も認めた。さらに,GLAをラット肝再生モデルに投与した結果,COXの発現制御と肝臓の脂肪酸組成変化ならびに肝再生の促進を認め,担癌モデルでは腫瘍の増殖抑制効果を認めた.【まとめ】ヒストン脱アセチル化の阻害(ヒストンのアセチル化)により,肝再生と肝特異的機能発現の促進,癌細胞の分化誘導と転移抑制が認められた.したがって,ヒストンアセチル化制御が肝再生促進と肝細胞癌の新規治療のターゲットとなりうる.
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