2003 Fiscal Year Annual Research Report
イオンビーム照射を用いた原子炉炉内材料の保全技術の開発
Project/Area Number |
14380230
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
長谷川 晃 東北大学, 大学院・工学研究科, 助教授 (80241545)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
佐藤 学 東北大学, 大学院・工学研究科, 助手 (40226006)
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Keywords | 軽水炉炉内材料 / 照射誘起偏析 / 表面腐食挙動 / 加速器照射実験 / 軽イオン照射 |
Research Abstract |
軽水炉炉内構造材料であるSUS304オーステナイトステンレス鋼では中性子照射下において粒界およびその近傍においてCrやNiの偏析が起こることが知られている。このような局部的な化学組成の変化によって表面腐食が起こり、その局部腐食により粒界き裂発生につながり、ひいては応力腐食割れを引き起こす可能性がある。しかし粒界近傍のこのような非常に狭い領域の粒界偏析は粒子線照射下でしか発生しないために、その腐食の挙動への影響については十分明かにはされていなかった。本研究では、金属中において表面から数ミクロンから30ミクロン程度の深さにまで均一に照射損傷を導入可能な1〜3MeVの水素イオンをSUS304に照射することで、粒界において偏析量・偏析幅の異なる試料を作製し、さらにその試料に対して電気化学的再活性化法により表面腐食の程度を定量的に評価することにより、原子炉内でおこる照射誘起偏析によると考えられている照射誘起応力腐食割れにおけるき裂発生のメカニズムを考察する手法を開発することを目的として行った。 照射温度として300,400および500℃を選び、東北大学ダイナミトロン加速器を用いて照射量として0.1,0.5および1.0dpaの水素イオン照射を行った。これらの試料における粒界偏析の挙動をFE-TEMを用いて評価し、さらに電気化学的再活性化率の測定とその後の表面観察により、粒界近傍の腐食の挙動について検討を行った。その結果、300℃および400℃照射においては、照射表面の化学的特性の変化により粒内孔食が起こりやすくなることで、照射誘起粒界偏析がおこっているにも関わらず粒界腐食が起こりにくくなること、この表面を2ミクロン程度除去することで粒内孔食が抑制され、結晶粒界および結晶粒界内の腐食特性を定量的に評価出来ることを示した。一方、500℃照射においては粒内の孔食が1dpa照射材においても見られず、結晶粒界近傍の粒界偏析が原因となっておこると見られる粒界腐食が照射表面においても明瞭に見られた。これらの腐食の条件を総合的に考察することで、軽イオン照射により粒界近傍で幅10nmから70nm程度のCrの希薄帯を作製できることを示した。またこれらの実験を通して、照射誘起の粒界偏析がもたらす表面の腐食挙動評価の方法を確立することが出来た。これにより、炉内材料保全のために開発された代替材料と従来材料であるSUS304との腐食挙動を比較することで、炉内構造材料の保全技術開発の効率化が図られると期待される。
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