2003 Fiscal Year Annual Research Report
脳海馬が合成する性ホルモンは急性的に記憶学習を改善し、新規の神経成長因子である
Project/Area Number |
14380311
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
川戸 佳 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 教授 (50169736)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
木本 哲也 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 助手 (60292843)
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Keywords | 海馬 / エストラジオール / ニューロステロイド / 記憶学習 / 神経成長 / シラプス / スパイン / 長期抑圧 |
Research Abstract |
本年度は以下の進展を得る事に成功した。 (1)海馬神経細胞における性ホルモン合成経路の解明 本年度は、海馬神経細胞における性ホルモン合成経路において難問として残されていた未決定部分、即ちDHEAからその下流のステロイドへの代謝経路の確定を目指し代謝実験を行った。DHEAからテストステロンが合成される経路には、アンドロステンジオールを介する経路とアンドロステンジオンを介する経路の2通りの可能性が考えられた。ラット精巣(末梢ステロイドホルモン合成器官)においては、「DHEA→テストステロン」における主要な代謝経路は「DHEA→アンドロステンジオン→テストステロン」であるが、海馬でも同じか否かが不明であったため、その決定を目指して代謝実験を遂行した。 成獣ラット脳より新鮮な海馬組織スライスを調製し、放射性標識されたDHEAを代謝基質として加えてインキュベーションの後、ステロイドを抽出・精製して順相及び逆相HPLCによる代謝産物の決定を行った。その結果、アンドロステンジオール、アンドロステンジオン、テストステロンが合成されることが確認されたが、アンドロステンジオールはアンドロステンジオンの20倍以上合成されており、海馬においては、DHEA→テストステロンの合成にかかる主経路はアンドロステンジオールを介する経路であることが示された。「DHEA→アンドロステンジオール」の反応は酵素17β-HSDの特異的阻害剤であるRM352-26によってはっきりと抑制された。更に、海馬ステロイドの質量分析測定を行うことにより、海馬においてエストラジオールが合成されていることを最終的に確定することに成功した。 (2)海馬神経伝達に対する性ホルモンの急性作用の解明 昨年度検討したエストラジオールのラット海馬神経細胞のLTPへの影響に引き続き、シナプス伝達の長期抑制(long-term depression; LTD)への作用を検討した。その結果、エストラジオールはNMDAによって誘導されるLTD強度を減少させることが判明した。 (3)性ホルモンの長期作用-シナプス後部(スパイン)の成長を促す女性ホルモン エストラジオールの神経成長因子としての機能を解明するため、海馬スライスに短期的に作用させ、単一神経細胞に微小電極を刺入して蛍光色素(Lucifer Yellow)を単一神経細胞に導入してスパインの形状を可視化し、スパインの形態につき詳細な解析を行った。その結果、エストラジオールを2時間作用させるだけで、CA1領域においてmashroomタイプの短いスパインがfilopodiaタイプの長いスパインに変化することが観察された。方、グルココルチコイド(ストレスステロイド)受容体のアゴニストであるデキサメサゾンを投与すると、異常な形態(正常な状態では見られない尖った形態)のスパインが現れることが観察された。 (4)以上の結果を総合すると、成獣ラットの脳海馬においてエストラジオールが合成され、これは急性的に神経シナプス伝達を改善し、神経成長因子として機能することが示された。本研究はその目的を達成することができた。
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Research Products
(6 results)
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[Publications] Shibuya K et al.: "Hippocampal cytochrome P450s synthesize brain neurosteroids which are paracrine neuromodulators of synaptic signal transduction."Biochim Biophys Acta. 1619(3). 301-316 (2003)
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[Publications] Kawato S et al.: "Neurosteroids are 4^<th> generation neuromessengers: Cell biophysical analysis of steroid signal transduction."Adv Biophys. 37. 1-48 (2003)
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[Publications] Ogiue-Ikeda M et al.: "The Effect of transcranial magnetic stimulation on long-term potentiation in rat hippocampus."IEEE Transactions on Magnetics. 39(5). 3390-3392 (2003)
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[Publications] Hojo Y et al.: "Adult Male Rat Hippocampus Synthesizes Estradiol from Pregnenolone by Cytochromes P45017α and P450 Aromatase Localized in Neurons."Proc Natl Acad Sci USA. 101(3). 865-870 (2004)
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[Publications] Kawato S: "Endocrine disrupters as disrupters of brain function: a neurosteroid view-point."Environmental Sciences. 11(1). 1-14 (2004)
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[Publications] 川戸佳: "ステロイドの常識が変わる:第4世代の脳の情報伝達物質ニューロステロイド:海馬が性に関係なく男性・女性ホルモンを合成する"生化学. 75(12). 1530-1535 (2003)