2002 Fiscal Year Annual Research Report
海馬シナプス非対称性の分子基盤と左右差を引き起こすメカニズム
Project/Area Number |
14380355
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Research Institution | Okazaki National Research Institutes |
Principal Investigator |
重本 隆一 岡崎国立共同研究機構, 生理学研究所, 教授 (20221294)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
伊藤 功 九州大学, 大学院・理学研究院, 助教授 (20183741)
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Keywords | 海馬 / NMDA受容体 / シナプス / 左右差 / 長期増強現象 |
Research Abstract |
我々は、マウス海馬のCA1錐体細胞シナプスにおいて、NMDA受容体サブユニットNR2Bが左右非対称に分布していることを機能的および生化学的方法により見出した。海馬交連を脳の正中において切断したマウス(Ventral Hippocampal Commissure Transected mouse ; VHCTマウス)の海馬スライスを作成し、左右海馬のSch-CA1シナプスが存在する層のみをそれぞれ切除し、PSD画分を調整した後、ウエスタンブロッティングを行った。現在までに明らかになった左右非対称性は、CA1 stratum oriensの同側錐体細胞の入力を受けるシナプスにおいて、NR2Bサブユニットの量比が右側:左側=1.5:1であるのに対しstratum radiatumでは右側:左側=1:1.5と逆転しているいうことである(投稿中)。VHCTマウスでは反対側海馬からの交連線維(Commissural fiber ; Com)を含まない、同側のシナプスのみが残存した海馬標本を得ることができる。VHCTを行っていない通常のマウスでは、このようなシナプスの左右非対称性がこれまで見い出されていないことから、同側入力と反対側入力の形成するシナプスにおけるNMDA受容体サブユニット構成は、相補的関係になっていることが推定される。また左右非対称性を引き起こす分子基盤を探るためにNMDA受容体の関連分子の局在左右差を検討中で、現在までにNR1とPSD95については左右差が全く見られなかったが、他の関連分子の中に候補を見出している。また形態学的な観点からVHCTマウスから作成した海馬標本を用い、postembedding法によって同側入力を受ける錐体細胞シナプスに存在するNR1とNR2Bの標識密度を左右の海馬で比較したが、バラツキが大きく現在のところ一定の結果が得られていない。これについては、より効率的な定量解析のために凍結割断レプリカ法を検討中である。 ヒトにおいては様々な脳の高次機能の左右非対称性(Laterality)の存在が知られているが、それを生み出す分子機構に関しては全く明らかになっていない。一方、ヒト以外の動物においては、Lateralityの存在そのものが確立されているとは言い難い。哺乳動物成獣の脳において機能分子の非対称性分布を初めて立証するこの成果は、シナプス可塑性をはじめNMDA受容体の関与する脳機能の左右差を初めて明確な分子基盤に基づいて明らかにする道を開くと考えられる。
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