2004 Fiscal Year Annual Research Report
文化資源・環境資源の開発と利用における先住民の適応戦略に関する研究-先住民政策先進国オーストラリアにおけるアボリジニに学ぶ-
Project/Area Number |
14401018
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Research Institution | National Museum of Ethnology |
Principal Investigator |
久保 正敏 国立民族学博物館, 文化資源研究センター, 教授 (20026355)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
金田 章裕 京都大学, 文学部, 教授 (60093233)
松本 博之 奈良女子大学, 文学部, 教授 (70116979)
杉藤 重信 椙山女学園大学, 人間関係学部, 教授 (70206415)
鎌田 真弓 名古屋商科大学, 総合経営学部, 教授 (20259344)
窪田 幸子 広島大学, 総合科学部, 助教授 (80268507)
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Keywords | 文化資源 / 資源の持続的開発 / 観光資源と開発 / 文化表象と展示 / 民族誌 / 研究資源共有 / 先住民政策 / 文化行政 |
Research Abstract |
本研究は、文化資源や環境資源の開発と利用を通して自文化・社会の発展を図るオーストラリア・アボリジニの活動の諸相を、行政や研究者など他セクターとのダイナミックな相互作用の中に位置づけて明らかにすることを目的とすると同時に、日本の先住民社会との比較を通して、応用人類学的政策提言までを視野に入れている。 平成16年度の調査では、アボリジニ・コミュニティ、研究者、行政、が三位一体となる動きが近年顕著であることが明確より明確となった。アボリジニ社会の間では、自分たちの文化や土地が文化資源-即ち、自文化にとってはアイデンティティの維持強化に結びつく資源であり、他文化に向けての自然・埋蔵資源の開発が自社会の経済的利益に結びつく資源であることが、広く認識されるようになり、白人社会への対応がより戦略的となってきた。 特に国立公園の土地管理を巡っては、「コモンズ」の考え方に基づく、アボリジニ-非アボリジニの共同管理体制が進む一方で、環境保全に関する考え方の世界的な変化、即ち、開発と環境保全の持続可能なバランスを目指す方向性が、管理方法にも反映されるようになってきた。しかし、アボリジニの権利が拡大し、観光開発が進むにつれ、開発に伴う利益配分を巡って、アボリジニ社会内部でのパワー・バランスが、従来の長老支配型から白人社会との連携に長じたグループ主導型へとより明確な変化を見せ、その結果、新たな軋轢を生み出しつつある。 観光開発と並ぶもう一つの重要な文化資源は美術作品である。90年代以降、各地域でのアートセンター新設が目立ち、相互にネットワークを形成したうえでのコミュニティ・ビジネスへの展開が盛んとなっている。他方では、グローバルなアートマーケットへの展開も急であり、そこでは、アボリジナリティを売り物にするこれまでの方向性から、現代アートへの展開によるマーケット拡大を図る方向へのシフトが、若手大物作家を中心に見られる。 本研究では、これらの変化を示すアーカイブズ資料の収集も合わせて行ってきたが、それら資料群からはまた、二大政党制をとるオーストラリア白人社会側の政治的対立が、アボリジニ社会側の対立構造に反映されている姿も読み取れる。しかし、アボリジニ社会が受動的に反応しているのでは決してなく、むしろ、文化資源をキーワードとして能動性を発揮しつつ実利性・戦略性をより高める動きが顕著である。これはまさに、伝統的な狩猟型社会の現代的な適応と言うことができよう。また本研究では、収集したアーカイブズ資料群を中心として、研究者間での共有を図る共有型マルチメディア・アーカイブズの形成も進めており、主に第二次世界大戦後のアボリジニ社会史・オーストラリア政府の対アボリジニ政策史・文化史を研究する研究資源としての活用を狙っている。
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Research Products
(3 results)