2004 Fiscal Year Annual Research Report
市場経済下における共同経営型農業の新たな可能性-ドイツ・中国・日本-
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14402027
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
谷口 信和 東京大学, 大学院・農学生命科学研究科, 教授 (80163632)
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Keywords | 共同経営型農業経営 / 集落営農 / 協同組合的組織原理 / JA出資農業生産法人 / 規模の経済 / ドイツ / 中国 / 国際比較 |
Research Abstract |
研究の最終年度にあたる本年度はこれまでの積み残しの課題を遂行しつつ、3カ年の研究を総括し、整理することを主要課題とした。そして実施計画に沿った研究の実施を通じて、以下のような研究成果が得られつつある。 (1)ハンガリー・チェコ・旧東ドイツ農業の市場経済下における農業構造の再編過程に関する研究の翻訳を完成し、これを印刷公表した。そこでは経済移行過程初期に予想されたよりもはるかに強固に共同経営型農業の残存がみられること、共同経営型農業は単に生産協同組合という企業形態だけでなく、株式会社をも含む多様な企業形態を取りながら存在していることが明らかになりつつある。 (2)第1年度に行なったドイツ実態調査の補充調査を行なった。そこではこれまでほぼ17年にわたって長期観測を続けてきたある地域の大規模な持株会社-子会社(有限会社)経営体制が、転換開始からほぼ10年経った2004年にそれまでの子会社に実質的に分解するという劇的な変化が発生したことが判明した。それまでの部門制的な性格を有した体制から独立会社間の関係への移行は、とくに畜産・酪農経営における部門間・企業関係の問題として古くて新しい重要な問題を提起しており、今後の深い検討が必要となっている。 (3)中国に関しては別件の調査で訪中した折りに、企業的性格を強く有した集団型経営(有機野菜・茶)などを調査したが、土地の集団所有制と企業的経営を組み合わせたところで、かなり高い経済的パフォーマンスを有する経営が出現していることが明らかになりつつある。 (4)国内農業経営についてはJA出資農業生産法人・集落型経営体についての各地の実態調査のほか、JAあいち中央における農業構造再編に関する新たな方向づけの運動の過程に深く関与し、様々なアドバイスを与える活動にも取り組んだ。その中で、全国有数の先進農業地帯においてすら、従来の法人経営や家族経営の枠を超えた新たな共同型の経営体育成の議論が登場しつつあることが注目された。 (5)また、米生産費調査の個表分析に挑戦し、稲作経済において規模の経済が十分に働かない要因を検討し、集落営農や共同経営型農業の意義と可能性についての新たな知見が得られた。こうした成果の一端は日本農業経済学会シンポジウムにおける「農業生産構造の変化と農政転換」の報告や衆議院調査局農林水産調査室の報告書への寄稿など、論文・報告書執筆の形での意欲的な研究成果発表として結実しつつある。
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