2003 Fiscal Year Annual Research Report
自己犠性と自己疎外と愛の同型性についての思想史的・精神史的研究
Project/Area Number |
14510052
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
田村 均 名古屋大学, 文学研究科, 教授 (40188438)
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Keywords | 心の理論 / 誤信念課題 / 自己認識 / Perner / Wellman / Leslie / Gopnik / Wimmer |
Research Abstract |
本研究の主題は、自己犠牲と自己疎外と愛という三つの行為類型の比較検討である。これらは、どれも主体に現実の自己放棄を強いつつ、理念上の自己実現を約束する。自己放棄と自己実現が通底するこの構造は、人間の共同生活の一個の逆説であり、この逆説的構造の分析が本研究の目的である。 今年度は、自己と他者のカテゴリーが形成される過程を、最近の発達心理学の研究を取り上げて考察した。 考察の対象は、Alison Gopnik、Alan Leslie、Joseph Pemel、Henly Wellman、Heinz Wimmerらの、幼児における「心の理論」の形成に関する研究である。これらの心理学者は、1980年代初めから90年代半ばにかけて、概ね一致して、3歳から5歳の間に「心の理論」に関わる発達上の大きな転換点があり、3歳前半の幼児は誤信念課題(false belief tasks)に誤答するが、4歳を過ぎると正答できるようになる、という事実を発見した。幼児は、3歳頃までに、他人に固有の知覚、欲求、意図、信念があることをほぼ理解する。だが、他人には固有の現実の表象があることは理解できない。幼児は、人に固有の現実の表象があることを理解するまでは、誤信念の他者帰属のみならず、自己帰属もできない。すなわち、正確な自己把握に失敗する。 哲学的に見れば、この発達上の事実は、他者の心を認知する枠組みの形成が、自己の内観的把握に先行する、という事実を明らかにしている。社会的な他者認知の枠組みは、自己認識の方向づけに本質的に浸透する。 本研究の主題にとって、今後は、他者認知に媒介された心理的な自己認識が、他者からほぼ独立の身体的自己認識とどのように相関するのかを探ることが重要となる。前者の自己認識が社会的協働や相互扶助を成り立たせ、後者の自己認識が個体の生存を支えるからである。
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Research Products
(1 results)