2003 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
14510084
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Research Institution | Kyushu Sangyo University |
Principal Investigator |
下村 耕史 九州産業大学, 芸術学部, 教授 (50069514)
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Keywords | 自画像 / 肖像画 / 祭壇画 / 寄進者 / 霊的読書 / 守護聖人 / 跪拝 / 幻視 |
Research Abstract |
デューラーにおける自画像成立の前段階として、本年度はビザンティン美術にまず注目した。13世紀後期のビザンティンの刊本彩飾画家と板絵画家は、玉座の聖母子の前で跪拝する人物を多く描いたが、これらの像は最初期の寄進者像として注目される。寄進者は聖母子の右下や左横に単独に、あるいは聖母子の左下に複数でいずれも祈祷者像として描かれる。ビザンティンのこれらの作品は昨年度主として考察した中世後期イタリアの祭壇画に感化を及ぼしたとみられるが、1290年頃のイタリアの祭壇画に登場する守護聖人は上記の作品にはまだみられない。守護聖人の登場に関して祭壇画の展開で重要な契機となったのは、12世紀中葉に生じた「美術作品は霊的読書(lectio divina)を促す視覚形式である」という考え方である。1300年頃のフランスの刊本彩飾画(大英図書館)では、告白し免罪された修道女が聖母戴冠の描かれた祭壇画という物質的イメージを見て、それにより聖三位一体の幻視に導かれるという神秘的過程が描かれる。またベルナルド・ダッディの後継者が1335年に制作した祭壇画では、聖母の描かれた画枠内から下枠を越えて、聖母が右手を下の跪拝の寄進者に差し出すという、興味深い図像が描かれる。この祭壇画には、「バニョロの聖母」と呼ばれ現在は失われた祭壇画の聖母が寄進者の幻視のうちにその祈りに応えるという幻視の光景が表現されていると解釈される。その意味でこの祭壇画は上述の霊的読書を促す美術作品の役割を端的に表現する好例といえる。更に祭壇画に描かれた守護聖人はこの幻視の過程で寄進者と聖母を結びつける仲介者と解釈される。守護聖人が祭壇画に登場する契機として、俗世の領域と神的領域を結びつける仲介者が必要とされたことが考えられる。祭壇画における寄進者の幻視とそれに伴う守護聖人の登場という新たな要素が15世紀前半のヤン・ファン・エイクによる近世肖像画の確立とどのように関連するかが次の課題となる。
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Research Products
(1 results)