Research Abstract |
本研究は,Seidenberg & McClelland(1989)が提案した語彙処理の枠組みを基に,日本語の読みに関する脳型情報処理モデルを構築し,我が国における失読症の発現メカニズムを明らかにすることを目的とする.このモデルは,人工的ニューラル・ネットワークで構築されるシミュレーション・モデルであり,処理要素であるユニット集合上に表現される文字形態,音韻形態,意味の各要素が双方向的に計算される過程により,単語の音読や理解が成立する. 昨年度はまず,漢字語・カタカナ語,計約4,000語の意味を語彙データベースを用いて約2,700ユニット上に分散表現することで符号化した.次に,グリッド・パターンで表現された単語の文字形態から,分散表現された意味を計算する過程における表記の影響について,簡単なパイロット実験を試みた.ネットワークの処理時間は仮名語より漢字語で速くなり,また漢字は意味を表す文字であるため,文字から意味を計算する過程では仮名語より漢字語の計算効率が良くなるという予測と一致した. 本年度は,健常成人の読みの特徴を再現するモデルの構築を目的とした.人間は文字言語を習得する前に語の音韻や意味を学習していると想定し,ネットワークの学習手続きとして,まず,1.音韻表象と意味表象の間の連合(音韻の生成と意味の理解)の学習を行い,次に,2.文字表象と先の二つの表象との間の連合(読み)の学習させることにした.これらの計算には非常に時間がかかるため,現在なお学習中であるが,おおまかな傾向として,1.では音韻の生成に比べて意味の理解が難しいこと,2.でも同様に,文字から音韻を生成するより意味を理解する方が難しいことが明らかとなった.本年度は残念ながら構築途中であり目標を達成できなかったが,来年度は,健常成人の音読モデルを完成させた後,その破壊実験を行い失読症がどのようなメカニズムで発現するのかを検討する.
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