Research Abstract |
本研究は,認識や行動の形成・発達を子どもの立場からのみではなく,社会文化的な環境要因との相互作用の立場からアプローチする「社会文化的アプローチ」を適用し,そこで強調されている「社会文化的に組織された文化的道具に媒介される子どもの行為のあり方を分析単位」として,それと認識・行動形成との関係を明らかにすることを目的とした.具体的には,観察対象として,入学直後の小学校1年生のクラスを選択、教室行動を中心とする学校内における諸行動を、4,5,月にわたり、2週間ごとに特定の日を設定して,教室入室時より放課後に至る短期縦断的,生態学的観察を行い,プロトコル分析を実施した.また,6月以降,小学校1年次終了までの間の3学期間,各3同ずつ同様の観察と分析を実施した.このことで、小学1年生が学校文化獲得過程においてどのような文化的道具に敏感に反応し、受容(習得)あるいは抵抗(専有)を示すのかの同定を試みた。 その結果,以下のような諸点を明らかにされた。 (1)社会文化的に組織されている文化的道具として,とくに学校環境における教師-生徒関係,同胞関係といった対人関係を媒介するコミュニケーションのための基本道具としてのことば遣いが注目された。とりわけ,日本語のことば遣いの特徴である尊敬語・丁寧語・謙譲語を使い分けて,公式,非公式な相手や場面に対して適応的な行動をとるといった,「ことばの使い分け」現象が観察され,それが子どもの生活場面、とくに学校文化獲得過程で大きな役割を演じていることが明らかになった。 (2)教師による教室文化習得のための文化的道具提示の中では,生徒の行動を規定する道具立てが中心となっていた.特に初期の段階では,学級における活動内容についての弁別的認識を形成する時間割の導入,授業の開始・終了を規定するあいさつなど,行動様式をパターン化した「決まり文句」の導入などが目立った. (3)教室の文化的道具は,大部分は自分なりの身につけかた(専有)が多く,生徒による抵抗が観察された.しかし,朝の会や学級会活動における話し合いという文化的道具の導入により,専有活動のぶつけあい(交流),そして多数決の導入により共同的行為の出現が観察された.形式上身につけたものも,改めて専有的理解のもとに共同行為化が達成される,いわば専有を基盤とした積極的な習得の道筋が観察され,生徒自身による自己制御的行動やそれに伴う自己意識,アイデンティティ形成への影響過程が示唆された.
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