2005 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
14510196
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Research Institution | SAGA University |
Principal Investigator |
樫澤 秀木 佐賀大学, 経済学部, 教授 (60214293)
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Keywords | リスク・コミュニケーション / 共考 / 有明海訴訟 |
Research Abstract |
文部科学省科学研究費にかかわる平成17年度の研究実績は以下の通りである。 1.今年度は、本研究の最終年度に当たるため、主として、理論的な整理を目指した。 2.社会心理学で議論される「リスク・コミュニケーション」論は、大いに示唆的であった。リスク・コミュニケーション論で主張されていることは、(1)それは、双方向コミュニケーションを必須とする、(2)コミュニケーションの過程や手続が重要である、(3)説得ではなく、相互理解を目指すべきである、といったことである。とりわけ、「共考」という考え方は、極めて示唆的である。 3.かかるリスク・コミュニケーション研究は、心理学上の事実に基づくものであるため、それは、現行の制度を検討する手がかりとなりうる。現行の諸制度、中でも環境影響評価制度は、リスク・コミュニケーション論で主張されていることの対極にあることが分かる。(1)それは、事業者から、あるいは住民などからの一方向コミュニケーションしか求めていない、(2)その中身も、双方からの意見書、回答書の提示でしかなく、コミュニケーションの過程や手続を軽視している、(3)相互理解を目指すどころか、事業者の強行的態度を許すものである。以上からすれば、日本の環環影響評価制度の下で、環境紛争が多発するのは当然のことであると言ってよい。 4.「有明海訴訟」について引き続き調査を行った。漁民側の工事差止仮処分請求は、高裁・最高裁で逆転敗訴となり、また公害等調整委員会の原因裁定も漁民側の主張を認めるものではなかったが、これでこの紛争が終わったわけではない。漁民側は、農水省が開門調査をしないことの違法性を確認する訴訟を新たに起こした。このことは、どれほど権威的決定がなされようと、その内実の論理に当事者が納得できない場合、紛争は適切に処理されたことにはならず、場を変えて継続することを示している。
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