2005 Fiscal Year Annual Research Report
要介護高齢者の自律性支援をめぐる倫理的諸問題-居宅介護と施設介護の比較研究
Project/Area Number |
14510203
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Research Institution | Aichi Prefectural University |
Principal Investigator |
田川 佳代子 (沖田 佳代子) 愛知県立大学, 文学部, 助教授 (10269095)
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Keywords | 高齢者介護 / 自立性 / 倫理 / ケア / 施設介護 / 居宅介護 / マネジメント / フィールドワーク |
Research Abstract |
目的と方法 名古屋市にある一つの特別養護老人ホームにおけるフィールドワークを通じ、施設介護あるいは居宅介護サービスを利用する高齢者の自律性およびその支援のあり方について調べた。研究方法は、要介護高齢者が生きている社会的・文化的脈絡ごと抽出しようとするものであり、はめ込まれた状況のなかで繰り返し経験される日常生活の出来事を中心に、参与観察から得られた人々の行為、言葉、組織的構造の産物について分析し解釈を行った。 フィールドワークは、2005年8月に7回、9月に6回、11月に3回、12月に2回、1月に3回の計21回行った。午前10時にフロアに入り、午後1時にフロアを出た。総時間数は63時間である。帰宅直後に、ブイールド・ノーツを作成した。この他、9名の介護職員へのインタビュー、1名のマネジャーに対するインタビューを行った。研究倫理上の配慮として、観察される側のプライバシーを犯す危険を避けるため、研究対象となる人々に対して、自分の立場やその場にいる理由について、責任ある立場の人(マネジャー)から紹介・説明をしてもらい、自分からも説明を行った。また、観察結果の解釈については、施設マネジャーに文書で提出し、それに対する意見を求める機会をもち、確認する作業を行った。 結果と考察 施設介護と居宅介護の利用者の経験の違いは、介護サービスを提供する組織のビューロクラティックな体制の監視下に身を晒す状態が、死に至る後までも「オンしっ放し」の状態に置かれる施設入所者と、「オンとオフの切り替え」が残されている状態の居宅介護サービス利用者に現れる。要介護高齢者の生きること・死ぬことにおける選択の自由・実行の自由は、これによって制約を受ける。施設の管理から脱しても、戻る家庭でうまくやっていけるか否かは、介護を引き受ける家族の条件によって左右される。家族に対するサービス提供側の統制力は低い。 他方、施設におけるマネジメントは、スタッフの介護労働を統制するメカニズムとして働き、そこに込められるイデオロギー(「家庭的な暖かい雰囲気」「利用者と職員の垣根を低く」)は、施設入所者の生きること・死ぬことにかかわる社会的状況に作用している。マネジメント過程においては、施設のスタッフ個々人の裁量的な判断は除外され、介護労働者としての能力は組織的編成のなかで評価される仕組みとなっている。統制された介護労働に組み込まれることの少ない、自律的な高齢者に対するケアのあり方は、この組織的編成におけるスタッフの評価の中ではほとんど考慮されないものとなっている(「基本的ニーズを補完する集団的援助」が「選択的ニーズに対する個別的な配慮」よりも優先される)。
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Research Products
(1 results)