2002 Fiscal Year Annual Research Report
近世尾張藩の享保改革における木曽政策に関する調査・研究
Project/Area Number |
14510352
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Research Institution | Gifu University |
Principal Investigator |
松田 之利 岐阜大学, 地域科学部, 教授 (90021766)
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Keywords | 尾張藩 / 享保改革 / 木曽 / 山村氏 / 中山道木曽路 / 宿役 / 槫木 / 木曽漆器 |
Research Abstract |
尾張藩領の木曽は、木曽代官の山村氏が幕臣でもあったように、当初は「御直領同事」と意識され尾張藩と幕府との共同統治という意識があったようである。しかし年々膨大な材木採取によって有用樹が減少して、寛文・元禄期に留木(禁木)・留山(入山禁止)措置が採られていき、享保期に尽山対策は徹底化された。しかしこの時の諸政策は山林政策だけでなく村方から代官の在り方にまで及んでおり、木曽の享保改革と呼ぶにふさわしい。 本研究は従来の林業政策を軸に享保改革を見るのではなく、住民の林業や宿への関わりや村落の変化など地域社会の在り方や、木曽代官山村氏と尾張藩、幕府の関係の変化などから、この享保改革を再検討することにした。山村氏にとっての享保の改革は、正保の火災、天保の処罰事件と併せて「三保の難」と回顧されたほどの危機的大事件であった。山村氏の木曽での領主的性格や代官としての権限が縮小され、尾張藩の直支配が強められたのであった。これは、(1)山村氏が独自に薪・葺板などの上納物や労働力を徴発することが困難になるような宿・村の変化、(2)木材の減少や、採材における山村氏への依存度の低下、(3)木曽山の尾張藩の直轄化=御直領同事を否定するために、幕臣でもある山村氏の排除の必要性によるものということが出来る。とくに(3)は、元禄頃からの将軍権力の強化とそれに反発する尾張藩との確執を背景とする木曽の上知問題への尾張藩の対応として重視したが、これに対する幕府の動向については次年度の課題である。 尾張藩の直轄化を強める政策は、木曽を尾濃平野の所領並みに扱うという方向性を持っていた。それは木曽が尽山化によって採材地という性格を失いつつある反面、木曽の地域内に運輸業・農業・採材業・木製品生産地域などが形成され、木曽地域内が複雑多様化して尾濃地域並みと藩の目に映った地域も出現したからであった。しかし住民が農業のための薙畑や木製品の原木である白木を採取するための山利用を著しく制限されたために、尾濃並みという政策は、地域住民の暮らしや地域社会にさまざまな歪や影響を与えたのである。その点については、次年度にさらに実態解明する予定である。
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