2003 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
14510359
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
平 雅行 大阪大学, 文学研究科, 教授 (10171399)
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Keywords | 顕密仏教 / 戒律 / 仏名会 / 堕地獄 / 一殺多生 / 聖徳太子 / 物部守屋 / 魔仏一如 |
Research Abstract |
本年度は史料の収集作業を引き続き進めるとともに、研究課題のうち、(1)宗教的暴力の実相、(2)その民衆支配への利用、(3)軍事的武力の正当化の言説について主に検討を進めた。 (1)「定慧の弓箭を彎(ひ)いて智慧の剣刀を摺(と)る」との表現のように、宗教的暴力にあっては戒律・禅定・智慧の三学が武器としてメタフォアーされている。中世の顕密仏教界では破戒が一般的であったが、密教僧に破戒・妻帯の事例が比較的少ないのは、戒律が祈祷力と関わっていたことに原因がある。 (2)地獄の恐怖を民衆支配に利用することは中世では一般的であるが、それが9世紀にまでさかのぼることが確認できた。仁和4年(888)の讃岐国仏名懺悔会では、浮浪・逃亡・偽籍などによる課役忌避を堕地獄の恐怖で牽制している。日本社会に地獄の観念が持ち込まれたそもそもの当初から、地獄が民衆支配に利用されていたことがわかった。 (3)武力行使にあたっては敵を悪魔・調達・仏敵と断じ、仏敵・神敵の殺戮が国土平安・万民快楽をもたらすと弁じてそれを正当化した。特に聖徳太子による物部守屋の討伐や大乗仏教における「一殺多生の菩薩行」を根拠として、衆生利益のために武器をとり戦うことこそが真の僧侶のあるべき姿である、と主張している。中世仏教は武装や戦争を肯定しただけではなく、衆生利益のための戦闘こそが仏道であると語ってみせた。 なお九州史学研究会からの依頼により、2003年10月11日にこれまでの成果を「中世寺院の暴力とその正当化」と題して講演した。その講演録は『九州史学』近号に掲載予定である(51枚、400字詰め換算)。
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Research Products
(2 results)