Research Abstract |
研究課題「中世ドイツ帝国における歴史意識と帝権理念史の基礎的研究」については,平成15年度は,データの収集,史料の読解を含む基礎的研究を遂行することができた。今年度当初の計画に則して,次年度にも継続する作業として,10世紀のオットー朝時代から12世紀初めのザリエル朝時代にいたる,約200年間のドイツを中心として,帝国内諸地域における著作,諸種の年代記,編年史,歴史書,叙事詩等の読解を進めた。この過程で新たに究明すべき課題も得られた。当該時代の歴史意識と。帝権理念史の研究と並行して,15世紀に関して派生する研究視角も得,課題を究明する作業を深化・拡大させつつある。平成16年度に継続して進めることとする。 平成15年度の研究成果としては,まず第一に,歴史学研究会編『地中海世界史』第2巻『多元的世界の展開』、(総頁数372頁)中に論文「カトリック的中世世界」を発表することができた。これは西方世界の政治史に則して,ドイツ(皇帝権と帝国)とイタリア(ローマ教皇権と諸地域)との相互関係を中心に,8〜15世紀を包括的に捉えたものである。ドイツ的=カトリック的神聖帝国概念図が,該当するドイツの「王朝」の時期に応じて相当異なる様相を呈することを確認した。第二に,コンスタンツ・バーゼル両公会議の時代の皇帝・帝国の教会改革に果たす役割に関連する,ドイツにおけるnatioの意識とその概念の確立に至る過程の検証と分析は終了した。これについては,平成17年度末の成果報告書の中にまとめることとする。第三に,これと関連して,中世末期におけるドイツ帝国と皇帝について,書評という形をとりつつ,(1)中世の王権の「覚醒」,(2)「宮廷」研究の現状,(3)国王宮廷の重みとその機能,(4)ドイツ王権の「特殊性」や「弱体性」について,本研究課題に則して進めている研究から,当該時代・地域について論じることができた(「書評:渡辺節夫編『ヨーロッパ中世の権力編成と展開』,『史学雑誌』第113編第2号所収)。
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