2003 Fiscal Year Annual Research Report
ヴァイマル共和国とナチス時代における医師・医療の社会史的研究
Project/Area Number |
14510415
|
Research Institution | Saga University |
Principal Investigator |
田村 栄子 佐賀大学, 文化教育学部, 教授 (20249238)
|
Keywords | ナチズム / ヴァイマル共和国 / 医学の危機 / 教養市民層 / 女性医師 / 中絶問題 / 自然治癒医療 / 断種法 |
Research Abstract |
本研究は、ヴァイマル共和国とナチス時代に、医師は医療活動を中心にどのように活動したかを、社会史的に考察することを目的としている。研究の結果、以下のことがわかった。 1.ヴァイマル時代の医師・医学について、優生学や社会衛生学を「近代科学」の一つとして重視してナチス時代との連続性が語られることが多いが、本研究は、「医学の危機」を考察の出発点とした。2.ドイツ医学界においては、19世紀から医師資格をもたない、自然治癒医療が盛んであったが、ヴァイマル時代には、国民の間で専門教育を受けて、国家試験に合格した医師(「学校医学」)への不信が強まり、自然治癒医療者に頼る傾向が強まった結果、「学校医学」の側に強い「医学の危機」意識が生じた。3.ドイツ医師協会は、危機への対応として、自然治癒医療やユダヤ系医師・女性医師を排除する方向を強めて、ナチスへ接近していく。4.しかし、医師のなかで10%に満たない女性医師は、1924年に「ドイツ女性医師同盟」を結成して、民衆の心によりそうべく様々な社会的衛生的活動を展開した。とりわけ女性医師は、労働者層の女性に共感して、妊娠中絶を禁止した刑法218条廃止の闘いに取り組んだ。5.ナチス政権は、ユダヤ系医師、女性医師の排除に乗り出し、民族共同体にとり有害な遺伝子排除の法(「断種法」)制定や、病気の予防や健康指導に力を入れた。6.生活習慣と病気の関連が注目され、自然治癒医療が国家的政策に取り入れられた。7.「学校医学」の側の医師の45%はナチス党員であったことに示されるように、医師は、ナチスの断種法の実施、安楽死政策、強制収容所における人体実験などナチス犯罪の最前線を担った。
|
Research Products
(2 results)