2003 Fiscal Year Annual Research Report
慣習法文書の史料的性格-西欧中世における「自由」と「権力」-
Project/Area Number |
14510421
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
斉藤 絅子 明治大学, 文学部, 教授 (90022467)
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Keywords | 慣習法文書 / 共同体 / エノー伯領 / 都市 / 農村 / 自由 / バン領主権 |
Research Abstract |
慣習法文書(chartes de franchises)を、都市と農村を問わず領主と共同体との間の既存の慣習的諸関係を成文化した文書と理解することが、欧米の中世史家の間で通説なって久しい。しかし、実際の研究をみると、慣習法文書は農村的居住地の法として扱われている嫌いが強く、さらに共同体の自由という見方が大きく後退し、領主の利益を強調する方向に傾斜している。申請者が研究対象としているエノー伯領の慣習法文書の研究にも如実にそれが表れている。首邑MonsとValenciennesの法は慣習法文書とみなされてはいないし、逆に後にボンヌ・ヴィルとなったSoignies, Fontaine-l'Eveque, Hal, Trazegniesは明らかに村落として位置づけられている。 申請者は、かって1295年にエノー伯によって賦与されたMonsの文書を慣習法文書として取り扱った。本年度はMonsに与えられた諸特権を素材として、慣習法文書の性格を改めて検討し、「慣習法文書としてのモンスの特権」(藤井美男・田北廣道編著『ヨーロッパ中世世界の動態像』九州大学出版会、2004年)として公表した。Monsの文書が領主と共同体の双務的協定という性格をもち、農村的居住地の文書と理念的には同一の性格をもっていること、さらに、慣習法文書はしばしば各居住地の一個の文書を対象として検討されてきたが、広く慣習法文書を捉えようとする観点からすれば、居住地に賦与された複数の文書を取り上げ、時間的に持続する動きとして理解すべきことを指摘した。
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