2004 Fiscal Year Annual Research Report
慣習法文書の史料的性格-西欧中世における「自由」と「権力」-
Project/Area Number |
14510421
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
斉藤 絅子 明治大学, 文学部, 教授 (90022467)
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Keywords | 慣習法文書 / 西欧中世の都市 / 西欧中世の農村 / 都市共同体 / 農村共同体 / 自由 / 自治 / 領主権力 |
Research Abstract |
本研究は、慣習法文書(charte-loi)の史料的性格を再検討しようとするものである。 申請者は近来の諸研究が強調する慣習法文書発給に作用する領主の利益を否定するものではないが、他方で、領主にこのような方向で慣習法文書の利用を志向させた状況(特に所領民の暗黙の力)を明らかにすることが必要と考える。今年度慣習法文書の内容の享受者について改めて検討しようとするのはこの故である。慣習法文書の享受者として通常分類されているのが、ブルジョアburgenses、他所者extraneus,聖人衆sanctuariiである。しかし、burgensesが通常自由保有農とされて彼らへの領主制的賦課が分析され、共同体の機構が明らかにされることはあっても、後2者について、彼らが慣習法文書起草にどのように位置づけられていたのかについては、これまで問題とされてこなかった。本研究では、まず聖人衆の具体的事例として、ソワニーの聖人衆(聖人ヴァンサン衆)に関する史料の分析を通して、慣習法文書と聖人衆との関係を究明することに努めた。 ソワニーには1172年から1339年までの62通の史料が残されているが、本研究では12-13世紀に発給された35通の文書を分析した。これらの史料にはソワニー外に居住している自由人・農奴の托身に関するものであり、ソワニーに居住する聖人衆は現れない。他方、1142年ソワニーの聖ヴァンサン教会とブルジョアの請願に対してエノー伯ボードワン4世が発給した慣習法文書の18条に、「誰であれ町の中に居住し、聖人に従属する者は、聖人に負うものを支払い、自由であるように」とされている。これらの聖人衆は聖ヴァンサン衆とは限らない。 ブルジョアと聖人衆の身分は並列されるものではなく、ブルジョアが居住地の自由の享受を通して領主の要求を忌避することへの懸念が18条に現れていると思われる。領主と所領民といった対峙的表現では整理しえない関係の中で人々は生活しているのであり、慣習法文書はそのような曖昧さ、矛盾を含む関係を包摂するものと言えよう。本研究の成果は2005年度明治大学『人文科学研究所紀要』に掲載される。
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