Research Abstract |
古代文学の表現について,「語り」あるいは「音声」を主題として考える研究者は,ほんとうに少数派になってしまった。少数派というより,私をのぞくと誰もいないといっても過言ではない。現在,古代文学を考えるほとんどの研究者は,文体とか構文とかを通して「書く」ことにこだわっている。しかし,どのように考えてみても,『古事記』の表現は,「語り」を母体としてできあがっており,そうした蓄積がなければ成立しなかった。 今回の研究では,継続的に行ってきた民間伝承と古代文学との関係について,総合的な研究を行うことができた。そのなかでもとくにこだわったのは,『古事記』の成立時期の問題と,表現や構造の問題であった。私が達した結論は,『古事記』の冒頭に置かれた「序」は9世紀初めに書かれて付け加えられたもので,『古事記』の本文自体は,「序」にある和銅5(712)年よりも早く,7世紀の半ばには書かれていたと考えられるということである。これは,通説とはかけ離れた見方であり,多くの賛同をえることができるかどうかはむずかしいが,幸いなことに古事記学会の大会講演「古事記『序』を疑う」において考え方を公にすることができた。今後,本科研の報告書や私自身が運営するホームページ「神話と昔話」(http://homepage1.nifty.com/miuras-tiger/),あるいは発表する論文等において,積極的に発言していきたいと考えている。 また,神話と昔話との関係についても考えることができたし,風土記についても考察することができた。それに加えて,現代社会の中で活動するさまざまな語りや音声に携わる人びとを招き,所属する千葉大学大学院社会文化科学研究科の社会化作業部会の活動と連携しながら,子どもたちや市民といっしょに生の語りを楽しみ,考えることができたのも大きな収穫であった。
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