2003 Fiscal Year Annual Research Report
泉鏡花文学の成立基盤としての近世文学、特に草双紙についての研究
Project/Area Number |
14510461
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
須田 千里 京都大学, 大学院・人間・環境学研究科, 助教授 (60216471)
|
Keywords | 泉鏡花 / 近世文学 / 地誌 / 東遊記 / 風流線 |
Research Abstract |
今年度は、昨年度に引き続き資料収集を行う一方、対象作品の読み込みと具体的な影響関係の検討を行った。 まず、資料収集については、昨年度の残り(すなわち全体の二〜三割に相当)の入手を心がけたが、新たな所蔵先を確認できず、テキストを入手したのは全体の一割にも満たなかった。引き続き、来年度以降の課題としたい。 次に、鏡花文学への影響の検討であるが、今回の調査で確実に影響関係を指摘できるのは『風流線』(明治三十六年十月〜三十七年三月「国民新聞)における橘南渓『東遊記』(寛政七年刊。後篇は同九年刊)の影響である。『風流線』の「手取川」の章で、工夫たちが加賀の手取川上の空中を飛行する男女の姿を目撃し、それを二柱の神と考えて、地震や津波の前触れではないかと噂し合う場面があるが、これは、『東遊記』巻之二「松前の津波」に拠ったものである。「松前の津波」では、南渓が津軽の老人から二三十年前の津波のことを聞かされるのだが、その前兆として、白昼異類異形の神々が虚空を飛行するのを諸人が実見した、とある。『東遊記』の影響は、従来、『神鑿』(明治四十二年九月単行)における『東遊記』後篇巻之三「四五六谷」と、『夜叉ケ池』(大正二年三月「演芸倶楽部」)における同書後篇巻之五「床下の声」のみであったが、それ以前に、すでに『風流線』において見られたのである。これは、鏡花が『東遊記』のような諸国の旅行記、見聞実記の類を愛好していたことの証左と見られる。報告者が編集・解題・解説を担当した『新編泉鏡花集』第八巻(平成十六年一月岩波書店刊)では、このような、近世文学・地誌と鏡花文学との関わりの深さを述べた。
|
Research Products
(1 results)