2004 Fiscal Year Annual Research Report
泉鏡花文学の成立基盤としての近世文学、特に草双紙についての研究
Project/Area Number |
14510461
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
須田 千里 京都大学, 大学院・人間・環境学研究科, 助教授 (60216471)
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Keywords | 泉鏡花 / 近世文学 / 偐紫田舎源氏 / 白縫譚 / 風流線 / 地誌 / 白牛 |
Research Abstract |
今年度は、昨年度に引き続き資料収集を行いつつ、主に対象作品の読み込みと具体的な影響関係の検討を行った。 まず、『白縫譚』第二十七編(柳下亭種員作・歌川国貞画、安政六年刊)に登場する、牛のイメージで描写されるお牛という人物は、鏡花の『白牛』(明治三十一年四月)に出る、松屋という遊女屋の女主人に影響を与えている。また、『風流線』(明治三十六年十月〜三十七年三月)『続風流線』(明治三十七年五月〜十月、明治三十八年八月単行)では、作品全体を大津絵の枠組みで捉えたこと、ヒロインお龍と巨山との対立が俵藤太秀郷のムカデ退治譚を踏まえていること、末尾で火に苦しむお龍像が畜生道で「三熱の苦しみ」を受ける龍の特徴を踏まえていること(すなわちお龍は龍の化身であること)、本作に滑稽性や伝奇性(猟奇性)が顕著なことなどが、草双紙的設定であることを明らかにした。具体的な影響関係では、仲働のお辻が双眼鏡で芙蓉潟をあちこち見回す趣向が柳亭種彦『偐紫田舎源氏』(歌川国貞画)第二十編に拠ること、幸之助が美樹子にわざと言い寄ったところ彼女の方も幸之助を養子とした上で姦通しようと持ちかける設定が、『偐紫田舎源氏』第二編で、山名宗全の藤の方への恋着を断ち切るため、光氏が深夜藤の方の閨を訪れ、わざと不義を仕掛ける場面に拠ることを実証した(「草双紙としての『風流線』」)。 さらに、「伊勢之巻」(明治三十六年五月)でも、晋の王質の爛柯の故事と同様の伝説が伊勢にあり(『宇治山田市史』「名所旧跡」「伝説」、『伊勢参宮名所図会』巻四、宮内黙蔵『伊勢名勝志』など)、明治三十五年二月の伊勢旅行の際の見聞を踏まえていることを明らかにした(『新編泉鏡花』第七巻「伊勢・名古屋編」解説)。 以上のように、鏡花は草双紙の読書体験や地方特有の前近代的故事を利用し、それを創作に生かしたことを明らかにできた。
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