2005 Fiscal Year Annual Research Report
泉鏡花文学の成立基盤としての近世文学、特に草双紙についての研究
Project/Area Number |
14510461
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
須田 千里 京都大学, 大学院・人間・環境学研究科, 助教授 (60216471)
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Keywords | 泉鏡花 / 『綟手摺昔木偶』 / 『七不思議葛飾譚』 / 『大晦日曙草紙』 / 「夜叉ケ池」 / 『続風流線』 / 「絵本の春」 / 草双紙 |
Research Abstract |
本年度は、当研究の最終年度として、さらに近世文学と鏡花文学との関係について考察を行った。その結果、判明した事実は以下の通りである。1、鏡花「夜叉ケ池」(大正二年)の舞台は「越前国大野郡鹿見村琴弾谷(ことひきだに)」となっているが、「琴弾谷」という地名は架空のものである。この材源は、柳亭種彦の読本『綟手摺昔木偶』(文化十年)冒頭で、女仙赤魚(あかな)が住む「琴引谷(ことひきだに)」に拠ったものと推測される。夜叉ケ池は、その池の主白雪姫の支配する一種の仙境であり、両者共通する。2、二世柳亭種彦(笠亭仙果)作・二世歌川国貞画の草双紙(合巻)『七不思議葛飾譚(ななふしぎかつしかものがたり)』第六編(慶応二年)で、鳥のくわえた手紙を追って山中に分け入った礫次郎は、厚ぎの姥が、ま萩の方の絵姿を板に張り付け針や釘で打ち、壇を築いてヒキガエルや蛇、イバラやアザミなどを供えて呪文を唱えているのに出くわす。ま萩の方の病の原因はこれだった、というのだが、これは『続風流線』(明治三十八年)「七箇の池」で、三太の養母がヒロインお龍の絵姿を調伏する場面に一致する。昨年度、「草双紙としての『風流線』」(2004年7月「文学」)で私は草双紙特有の伝奇性の例として提示したのだが、実際、この場面は草双紙にその材源があったわけである。3、山東京山作・歌川国貞画の草双紙(合巻)『大晦日曙草紙(おおみそかあけぼのぞうし)』(天保十年)七十四回で、小春が巳の年月日の生まれであることから、病気の薬に供するため生き胆を取られるのではないかと伝兵衛が心配する場面があるが、鏡花「絵本の春」(大正十五年)もこれと同一の設定である。以前、『児雷也豪傑譚』二十五編の影響を考えたが、本作の影響も加えるべきである。なお、以上の材源考証とは別に、草双紙を想起させる美麗な鏡花単行本の書誌を『新編 泉鏡花集 別巻二』に発表した(二二〜三四七頁)。
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Research Products
(1 results)