2003 Fiscal Year Annual Research Report
室町期連歌師における教養の基層-『兼載雑談』を中心に-
Project/Area Number |
14510465
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Research Institution | Kyoto Prefectural University |
Principal Investigator |
安達 敬子 京都府立大学, 文学部, 助教授 (90194555)
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Keywords | 猪苗代兼載 / 連歌師 / 兼載雑談 |
Research Abstract |
『兼載雑談』の本文校訂と全項目についての注釈が完了し、三弥井書店から『歌論歌学集成大十二巻』として、2003年3月末に刊行した。この項目を注釈する作業を通じて得た知見を、更に発展させて考察した結果を以下に述べる。 (1)前年度の報告書で述べたように、『兼載雑談』には、寺社縁起・中世神話・太子伝・高僧伝などの神祇釈教に関わる話題が頻繁に取り上げられている。それらは中世古辞書類と共通するものが散見され、古辞書の世界と中世連歌師の知識には通底する部分があることが予想されたのであるが、特に太子伝との関わりに注目し『兼載雑談』の記事の背景に「文保本太子伝」に見られる内容と歌学との交流、また後鳥羽院怨霊説話と結びついた異説の生成などの興味深い現象が展開されていたことがうかがえた。これは単に猪苗代兼載という一連歌師の知識にとどまらず、室町中期の太子信仰のひろがりにについても新たな視野を、もたらすものである。 また、公家や武家の家伝・系図に対する目配りも単に処世上必要というだけでなく、新たな説話の創始に関わる場合もあった。「達智門」という笙をめくる音楽説話についての記事は、足利将軍家と結びついた楽家、豊原家の権威付けの過程を反映したものであることが明らかとなった。これも宮廷や幕府、また歌壇と豊原家が如何に関わったかを示す興味深い資料となっていて、単に「雑談」として無視し得ない。 (2)当時の世情や風俗の一端を述べた記事と神祇や有職について記事も一見無関係に見えて、実はまとまりのある内容を背後に持つ場合がある。一例をあげると、平将門の伝説と桜町中納言、鎮花祭についての各々の記事は相互に連結して、民間陰陽師を含む唱門師の新年の雑芸に対する、兼載の関心を物語る事例である。連歌師の同時代の芸能への視点を考えるうえで重要な資料といえよう。 上掲したものはその一端にすぎないが、他の項目についても更に考察を進めればなお、同様に興味深い現象を発掘することは可能と考える。 より多くの事例を補充し、改めて活字化して発表したい。
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Research Products
(1 results)