2002 Fiscal Year Annual Research Report
英国小説の起源としてのルネサンス期ドメスティック・ドラマの研究
Project/Area Number |
14510500
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
原 英一 東北大学, 大学院・文学研究科, 教授 (40106745)
|
Keywords | ドメステック・ドラマ / 犯罪 / イギリス小説 / ロンドン / リチャードソン / デフォー / ディケンズ |
Research Abstract |
英国小説が18世紀初頭にデフォーやリチャードソンによって創始されたというのがこれまでの一般的見方であった。さらにその淵源としては17〜18世紀の散文ロマンス等が考えられていた。前時代の主流ジャンルである演劇の中にすでに小説の起源が胚胎しているのではないかとの仮説の下に本研究は出発した。特にリチャードソン、フィールディング以来、19世紀のオースティン、ディケンズに至るまでの小説の中に演劇的要素が強く存在することに注目し、演劇と小説の関係を再検討することになった。いわゆるドメスティック・ドラマとして知られる一群のルネサンス期演劇の中に約一世紀を経て新たなジャンルを生み出す要素が多々見られる。本研究はArden of Faversham, A Yorkshire Tragedy等の比較的著名な作品のみならず、Two Lamentable Tragedies等の演劇作品を詳細に検討することにより、18世紀の小説とこれらの演劇との間を「犯罪」という共通の要素が結びつけていることを発見した。16世紀後半から急速に発達したロンドンを中心とする都市文明と初期近代資本主義杜会のシステムが個人の本能的な欲望や感情との間に軋轢を生じ、それが犯罪として表現されるのである。換言すれば近代文明のシステムとその中に捉えられた個人との葛藤がこれらの演劇の共通するテーマである。それがデフォーやリチャードソンの小説と通底するところであり、イギリス小説というジャンルそのものの中に深く組み込まれることになったのである。19世紀のディケンズの小説が演劇的であり、犯罪を主要テーマとすることはその証左である。ルネサンス期ドメスティック・ドラマは、ミドルトン、ヘイウッド等の都市演劇と共にイギリス文学史の中に重要な位置を占めることが明らかになった。
|
Research Products
(2 results)
-
[Publications] 楠 明子, 原 英一(編): "ゴルディオスの絆-結婚のディスコースとイギリス・ルネサンス演劇-"松柏社. 302 (2002)
-
[Publications] 原 英一: "ヴィクトリア朝の挿絵メディア(小森陽一他編、『岩波講座文学2 メディアの力学』所収)"岩波書店. 22 (2002)