2004 Fiscal Year Annual Research Report
1920年代におけるイングランド文化・アイルランド文化全般の社会思想史的考察
Project/Area Number |
14510507
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
鈴木 聡 東京外国語大学, 外国語学部, 教授 (80154516)
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Keywords | モダニズム / 探偵小説 / 大衆文化 / ノスタルジア / ナボコフ / ジョイス |
Research Abstract |
1918年に終わった第一次世界大戦を契機として生じた価値観ならびの思想の変容のもっとも端的な現われを、1920年代以降のイングランドおよびアイルランドにおける藝術および大衆文化の様相のうちに認め、これをより一般的な文脈に敷衍して論じる可能性を模索した。その過程において重点がおかれたのは、以下の諸点である。(1)近代戦がもたらした大量動員、大量死という現実にたいする反動として巻き起こる思想上、藝術上の動き。(2)1920年代においてもっとも注目すべき思潮であるモダニズムの方法を断絶の結果として論じるべきかどうかという問題。(3)方法論の徹底した理論化の成果と見なすことのできるモダニズム文学と、同時代の代表的な大衆文化の一ジャンルである探偵小説の接点。(4)旧制度の崩壊と逆行するかのようにして浮上する、ナショナリズムならびに国民文学への関心。以上のような問題をとりあえず設定したうえで、考察をかさねた結果、つぎの点が明らかとなってきた。(1)にかんしていえば、個人の生と死の問題がつねに両義的なものとしてとらえられるようになることは、この時代の重大な特徴であるといえる(2)については、モダニズムをたんなる革新と見なす旧来の考えかたは一面的であって、世紀末の象徴主義や唯美主義との連続性からこれをとらえる可能性も考えてみる必要がある。(3)については、十九世紀的な藝術家小説と探偵小説の融合を図ったヴラジーミル・ナボコフの作品を徴候的な例とした。(4)にかんしては、ノスタルジアと称される心性にもじゅうぶん配慮しつつ、20世紀文化全般の特質である国際性、普遍性にいたる一段階としてとらえなければならない。この視点に立って、たとえば、ナボコフのテクストがジェイムズ・ジョイスを表面上、彷彿させるからといって、その事実を単純な影響関係に還元することなく、同時代性として、より広汎な文化現象の一端としてとらえる配慮が必要となってくる。
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Research Products
(3 results)