2002 Fiscal Year Annual Research Report
20世紀英文学にみる「歴史意識」の転換及び歴史観の表象研究
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14510541
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Research Institution | Tsuda College |
Principal Investigator |
早川 敦子 津田塾大学, 学芸学部, 助教授 (60225604)
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Keywords | 歴史小説 / ホロコースト / 第二次大戦戦後 / 現代小説 / 記憶 / 歴史意識 / ニュー・ヒストリシズム / 過去の再構築 |
Research Abstract |
1.[研究内容] 今年度はおもに第二次大戦以後の文学に焦点をしぼり、戦争を体験していない第二世代の作家たちがどのように「歴史」を現代の文学の中に表現していっているかを考察、歴史意識の変容と文学との関係に着眼した研究を行った。テーマとして重点をおいたのが「ホロコースト文学」であるが、ホロコーストの現実を歴史の証言として書き記していった作家たちとは明らかに異なった文学の創造が新たな世代から輩出している潮流を体系的にとらえ、そこで本研究の目的である「歴史意識」の転換を読み解く展開が可能になった。 2.[研究による新たな知見] テキスト分析にあたって対象としたAnne MichaelsのFugitive Piecesをはじめ、Martin AmisのTime's Arrow, William StyronのSophie's Choiceなど、戦後の作家たちによるホロコーストをテーマにした作品に共通して見られる表象は「記憶」のモチーフである。過去を事実として記録するのではなく、個人の記憶として再生あるいは再構築していく過程が物語を構築していく。そこから自ずと立ち現われてくる歴史観は、「現在」に組み込まれた「過去」との対峙という、現在を基軸にした歴史の意味づけであり、それは「神の視点」による歴史の現前性と相対する「人間の視点」による新たな物語としての歴史である。ここに、現代文学における素材としての「歴史」の多様性が透視されてくる。Sue Viceによる論考Holocaust Fictionをはじめ、David PattersonのThe Shriek of Silenceなどの最近の先行研究も、「ホロコースト文学」を現代文学の一つのジャンルとして捉える可能性を示唆しており、現代文学の中で歴史小説を体系づける上でひじょうに有益であった。
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Research Products
(2 results)
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[Publications] 早川敦子: "Hiroshima nicht vergessen"Kinder-und Jugendliteratur-forschung in Osterreich. Bond 3. 143-150 (2002)
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[Publications] 定松正, 早川敦子 他: "イギリス・アメリカ児童文学ガイド"荒地出版社. 320 (2003)