2002 Fiscal Year Annual Research Report
生成文法理論における「位相」についての理論的及び実証的研究
Project/Area Number |
14510543
|
Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
石井 透 明治大学, 文学部, 助教授 (30193254)
|
Keywords | 生成文法 / 極小モデル / 言語機能 / 認知科学 / 計算の複雑さ / 位相 / WH移動 / Wh島の条件 |
Research Abstract |
人の精神/脳の中に組み込まれている言語機能の構造と機能に関する理論である生成文法において、これまで提案されてきた計算操作をより計算上の効率性を高めるようなものに置き換えることは、理論の進展上必要不可欠のことである。本研究はこのような視点に立ち、生成文法理論の最新の枠組みである極小モデルにおいて重要な概念の1つである位相の理論的・実証的に妥当な定義の発見を目指している。位相は計算上の効率性を高める役割を果たす概念の1つであるが、これと類似した概念として以前の生成文法の枠組みである(拡大)標津理論においては循環節点という概念が仮定されており、当時の議論を現在の視点から見直すことは有意義であると考えられる。今年度の研究では間接疑問文からのWH移動に関する言語間の差異について扱った。英語においては、WH移動により時制間接疑問文の中からWH句又は空演算子を取り出すことは不可能であるが、この事実は、当時の枠組みでは、循環節点と同一である境界節点に基づく下接の条件によって説明されていた。しかし、その後の研究により、英語とは異なりイタリア語・スペイン語などでは時制間接疑問文の中からのWH移動が可能である事実が発見され、英語とイタリア語・スペイン語とでは境界節点が異なるという恣意的な提案がなされた。これに対して本研究では、位相と仮定されている2つの範疇(CP(補文標識句)とvP(軽動詞句))が単独の位相として機能するのは、この2つの範疇の間に他の顕在的要素が介在していない場合であると提案し、これによってWH移動に関する言語間の差異が説明できることを示した。そして、この分析は、表示の経済性の面から概念的に支持されるばかりではなく、英語においても主語が顕在化されない不定間接疑問文からはWH移動が可能であることから、経験的にも支持されることを示した。
|