2003 Fiscal Year Annual Research Report
クリストファー・マーロウのケンブリッジ大学人脈に関する研究
Project/Area Number |
14510547
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Research Institution | Ferris University |
Principal Investigator |
井出 新 フェリス女学院大学, 文学部・英文学科, 教授 (30193460)
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Keywords | エリザベス朝演劇 / イギリス史 / イギリス文化史 / イギリス演劇 / クリストファー・マーロウ |
Research Abstract |
ケンブリッジ大学古文書館に所蔵されている大学裁判所(Vice-Chancellor's Court)の記録、大学生や教員同志、或いは彼らと住民との係争事件が記された貴重な史料である。今年度はクリストファー・マーロウの在籍中及びその前後の時期の裁判記録(CUA,Collect.Admin.6a,Buckle BookとCUA,Collect.Admin.13,Utinam)を調査した。その結果、コーパス・クリスティ学寮の学生達が関わったわった係争事件が数件存在することが判明し、学生達の詳細な交友関係が立ち現れてきた。その中でも最も重要な発見は、1587年にウィリアム・オースティンというコーパス・クリスティの学生が関わった係争事件である。この事件は、貧しい学生がしばしば起こした借金の踏み倒し問題だが、裁判では、オースティンが地元の食料商に金を借りたことを証言する証人としてマーロウが登場する。マーロウの証言内容と裁判記録によって明らかになったことは、(1)二人の親密な交友関係、(2)カンタベリー出身者人脈の結びつきの強さ、(3)彼らの殆どが聖職に就かなかったという事実、である。特に(3)が重要な意味を持つのは、1587年に大学で広まった噂話(マーロウ=カトリック反逆者説)との関連である。結論から言えばコーパス・クリスティ学寮という小さく閉鎖的な社会の中で、マーロウを中心とするカンタベリー出身者のグループは、他のプロテスタント急進派的傾向をもつ学生、とりわけイースト・アングリア地方出身の学生グループから危険視される可能性が十分にあり、それがマーロウに関する噂話の創生の引き金となったということだ。そういう意味で、マーロウとオースティンを結びつける新史料の発見は、おそらくマーロウ研究史に残るものとなるに違いない。そして学寮内での学生グループの衝突は、演劇的娯楽に関する価直観の相違ということにもつながるように思えるが、それは来年度の課題となるであろう。
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