2003 Fiscal Year Annual Research Report
イギリスロマン派における詩と科学の対概念に関する研究
Project/Area Number |
14510559
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Research Institution | Himeji Institute of Technology |
Principal Investigator |
石倉 和佳 姫路工業大学, 環境人間学部, 助教授 (10290644)
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Keywords | イギリスロマン派 / イギリス詩 / 詩論 / ヨーロッパ科学史 / イギリス19世紀文化 / 王立協会 / 方法 |
Research Abstract |
平成15年度における本研究の目的は、イギリスロマン主義における詩と科学の対概念についての理論的枠付けを行うことと、詩と科学を一対にとらえる思考の型が、どのようなロマン主義の作家、作品に見ることが出来るかを検討することである。具体的にはまず、1)コールリッジと数学者W.R.ハミルトンとの関係から、詩と科学がいかに共通の関心で結ばれているかについて、伝記的側面、およびコールリッジの「方法」が数学的なアナロジーとしても捉えられる点から考察した。この二人が共有していたものは、詩も科学も現実を変革する力があるという認識である。この研究テーマは「コールリッジとハミルトン-詩と数学のアナロジー」という論文にまとめた。コールリッジとハミルトンについて、文学研究の分野ではほとんど取り上げられることがないが、この点からも重要な研究成果であると考える。次に、2)昨年度からの研究を受け継ぐ形で、ワーズワス、コールリッジにおける詩人と科学者に関する考察を、化学者ハンフリー・デイビーとの交友やデイビーの化学理論を交えながら検討した。『リリカル・バラッズ』第三版(1802)のワーズワスの序文に、新たに加筆された詩人と科学者の役割についての言及箇所をデイビーの影響から分析し、デイビーの「化学的親和力」への洞察とコールリッジの極理論との関連を明らかにした。この研究成果は、英文論文、"Coleridge's Vision of a Little Colony : Questioning How Poetry and Science Meet"としてまとめ、現在論文投稿中である。そして、3)詩と科学を相互に補完的なものと捉える思考の精錬のひとつの結果として、コールリッジの「方法論」を位置づけ、19世紀の新しい科学の時代の到来という歴史的文脈を考慮しながら、「方法論」には詩と科学をひとつの相のもとに見る思考が展開していることを検討した。この研究成果は、来る平成16年5月大阪大学で行われる日本英文学会全国大会で研究発表の予定である。 以上、ロマン主義第一世代において詩と科学の対概念を想定しうる具体的検討事例である。これらの研究と平行して、18世紀から19世紀初頭にかけてのイギリスの文化における王立協会、および1830年代以降の英国学術協会について順次検討し、科学者の文化に対する影響を研究している。また、詩と科学の対概念が積極的に受け入れられる社会的土壌について、科学者集団が特定の専門領域に縛られていないこと、総合的な知識への信頼を持ちうる文化的環境であること、同時に科学研究がある意味では世俗化してもいること、などの条件を見出してきた。これらの条件を明確に見極めたうえで、ロマン主義第二世代の、特に作品における詩と科学の対概念の表象の分析、検討が必要であると考えるが、そのための準備として、M.シェリー,J.キーツの作品を順次分析している。
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Research Products
(1 results)