2003 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
14510569
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
東郷 雄二 京都大学, 大学院・人間・環境学研究科, 教授 (10135486)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大木 充 京都大学, 大学院・人間・環境学研究科, 教授 (60129947)
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Keywords | 指示 / 照応 / 総称文 |
Research Abstract |
本研究は,自然言語における指示と照応現象を語用論的観点から解明しようとするものである.本年度は計画の2年目であり,1年目に行なったフランス語会話コーパス分析によって得られたデータを基にして,指示・照応現象を統一的に扱うための最適な理論的モデル構築に着手した.会話コーパスの最大の特徴は,話し手と聞き手がいて,発話の現場を共有し,時系列に沿ってオンライン的に談話処理を行なうという点である.このとき談話は,話し手と聞き手のあいだでの相互行為として発現する.指示と照応の問題は,このような相互行為の場において捉えられなくてはならないが,従来の研究ではややもすれば,単文レベルでの考察に終始していた.このために何が起きたかというと,A dog came in. It sat down under the table.というミニ談話において,伝統的述語論理の記述は∃ x (dog(x) ∧ come-in(x)) It....となり,照応的代名詞itは存在量化子の作用域の外に出てしまい,その指示を確定することができない.一これがラッセルのパラドックスであった.しかし,会話コーパスの談話分析から得られた最も重要な知見は,このような意味モデルには根本的な欠陥があるという事実である. われわれはこの欠陥を克服し,より自然言語処理に適したモデルとして談話モデル理論を構想している.談話は話し手と聞き手の相互行為であり,話し手と聞き手は時系列に沿って変化する談話資源を検索参照することで,意味理解を行なっていると考えられる.このような処理過程を解明するためには,伝統的述語論理のように,変数に基づくモデルではなく,時系列に沿って談話資源が累積されるようなモデルでなくてはならない.われわれはこのため,変数に代わって談話の指示対象discourse referentの導入と登録を基盤とする談話モデルを構想した. 本年度はこの談話モデルに基づき,フランス語でDes rosiers qu'on ne taille pas ne donne pas de belles fleurs.(剪定しないバラはきれいな花を咲かせない)のように,例外的にdes N主語を持つ総称文の分析を行い,これがふつうの総称文のようにNの表す集合の個体量化によって得られるのではなく,関係節のような修飾語句が定義する状況の集合の量化によって得られるということを明らかにした.この成果は日本フランス語学会例会において発表した.
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Research Products
(1 results)