2002 Fiscal Year Annual Research Report
スターリン時代の文化政策における検閲システムをめぐる歴史的研究
Project/Area Number |
14510602
|
Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
亀山 郁夫 東京外国語大学, 外国語学部, 教授 (00122359)
|
Keywords | 検閲 / 二枚舌 / ゾーシチェンコ / ジターノフ / 形式主義批判 / グラヴリト / スターリン / 大テロル |
Research Abstract |
スターリン時代の文化政策において検閲はどのような役割を帯びていたのか。それは個々の作家や芸術家たちの仕事に具体的にどのように反映したのか。本研究は、前回の「ソビエト全体主義における文学と政治イデオロギーの関わりをめぐる史的研究」を受け継ぎ、ソビエト権力と芸術家の関係性を《検閲》の概念を通して改めて問い直そうとするものである。初めに、本年度内に刊行されたが、部分的に本テーマとかかわりのある著書の刊行について参考のために記しておく。 『磔のロシア-スターリンと芸術家たち』(岩波書店、2002年5月刊行、総350頁、大佛次郎賞受賞) さて、本年度の実質的な研究実績として挙げられるのは、以下の1点である。 「自足する猿の小さな悪意-スターリン時代の検閲文化とその一断面」(岩波講座『文学2』所収、203-225頁)本論文では、初めに、74年間にわたったソビエト社会主義における検閲の歴史的役割の概観し、その後で、20世紀ロシア最大の風刺作家と目されるミハイル・ゾシチェンコが短編小説「猿の冒険」によって受けたソビエト当局から受けた迫害の実態とその理由を探った。ゾシチェンコはスターリン時代を生きた作家としては珍しく、ほとんど権力による表立った批判の対象とならずに、戦前を生きぬいてきたが、戦時中に発表された『日の出前』をきっかけに批判が強まり、「猿の冒険」によってついに作家同盟からの追放という破局的な事態をむかえた。しかし、この措置は、たんに、検閲側がゾシチェンコにみたソビエト市民への侮辱(猿=ソビエト的人間という図式)を直接の原因とするよりも、むしろ、より政治的なレベルでのマクロ的状況、すなわちレニングラード派の台頭をおさえたいモスクワ派政治官僚たちの政治的マヌーヴァーが大きな影を落としていたことを歴史的に明らかにした。
|