2003 Fiscal Year Annual Research Report
アメリカ宗教民謡の比較文化研究-讃仏歌と黒人霊歌にみる文化融合と大衆的創造
Project/Area Number |
14510651
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
ウェルズ 恵子 立命館大学, 文学部, 教授 (30206627)
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Keywords | フォークロア / フォークソング / 日系アメリカ人 / 宗教 / 讃仏歌 / アメリカ文化 / アフリカ系アメリカ人 / 黒人霊歌 |
Research Abstract |
1930、40年代のハワイ島コナを中心に、日系人浄土真宗門徒^iの間で信仰を歌う民俗宗教的な活動が盛んになった。きっかけは1936(昭和11)年に文学的素養豊かな松浦秀雲が本派本願寺開教師として着任したことだが、盆踊り歌なども含め日系人には信仰を歌う習慣がそれ以前からあった。当時600から700家族が本派本願寺に属し、日本人世帯のほとんどを占めていた。日本語で十分な文章表現ができるほど教育の機会に恵まれず、筆記さえ不自由な人々によって半ば口承されたこれらの詩歌は、信心が開けるまでの苦悩と覚醒の歓喜を表現し、感動的な作品も少なくない。歌詞は御詠歌と異なり叙景を含まず、日本文学の正統的な詩歌の表現から遠い。声明のように経典からの表現やイメージを使うこともない。社会の動きについて積極的に発言するものはなく、受け身の姿勢が明らかである。節は流行歌や民謡などの影響を受けているようだが、短調で淡々と似たリズムを繰り返す。 これらの歌詞ひとつひとつとその創作や伝承の様子を探っていくと人々の、特に女性たちの苦悩の底に時代と環境が強いた耐え難い満たされなさがあったことが読みとれる。それは、生まれながらに不浄と定められた女であることの不幸であり、親や故郷の遠さであり、自分について考えたり知ったりする機会の欠如であり、第二次世界大戦への息子たちの出征と戦死であった。本研究では、遺族に残された手書きの歌詞ノート二冊と録音テープ2本を主たる一次資料とし、ハワイ島での聞き取り調査を裏付けに使いながら民間仏教歌の伝承と創造を、女性の暮らしと関連させつつ追った。資料の保存と分析検討を行った。 ハワイでは人種間結婚が進み、日本語は表現の場から消え、日系人にもキリスト教信者が増えている。当然、民間仏教歌も変化していく。しかしそこにはまだ、一世から継承されてきた感受性や精神性が表現されている。何に心をひかれ、日常の悩みや苦しみにどう対処するかについての指向である。ハワイ日系女性の民間仏教歌は、彼女らの苦悩と、現実の受容や法悦というダイナミックな精神の動きを伝えてきた。今後仮に民間仏教歌が表現媒体としての力を失っても、感受性や精神性は別の形で伝承されていくだろう。
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Research Products
(2 results)