2003 Fiscal Year Annual Research Report
戦間期憲法の歴史的射程に関する研究-アイルランド憲法の視座から-
Project/Area Number |
14520029
|
Research Institution | Ryukoku University |
Principal Investigator |
元山 健 龍谷大学, 法学部, 教授 (80116285)
|
Keywords | アイルランド / 憲法 / イギリス憲法 / 北アイルランド紛争 / カトリック / ナショナリズム |
Research Abstract |
アイルランド1937年憲法がかくも長命な理由は何か。2003年3月、2003年9月の両度にわたる現地での調査を踏まえて仮の結論を概括することにする。これを可能ならしめるに際しては、37年憲法制定にかかわる一次資料が、とりわけ国立公文書館とダブリン大学ユニヴァシティカレッジにおいて公開されて、多くの法政研究者の利用が可能になったことがある。さらにはアイルランドの経済的発展に基づくアイルランド人の自信とアイデンティティの確立は植民地・従属国史観を踏まえつつ、独自の国民の歴史を語るうることを可能ならしめていることも研究の新展開に寄与しているように思える。 長命の理由は第一に、起草者たちが憲法のカトリック性、近視眼的な民族性を書き込まなければならない状況下にあって、いつの日か狭隘なイデオロギーに挑戦しうる普遍的人権思想を矛盾を承知で組み込んだことである。第二に、当時としては画期的な違憲立法審査制度を導入したことである。第三に、イギリスの政治制度を比例代表制の下で継受することができたことである。保守二大政党制が比例代表下で可能だったのは南北の分裂によって、南の共和国ではカトリック的社会が安定的に存続しえたからであった。第四に、EUへの加盟を前後して驚異的な経済成長が社会の近代化を促し、その先頭に法律家集団が立って、社会改革を推し進めることができたことである。 こうして戦間期に生まれた憲法の中で、アイルランド憲法は唯一、21世紀にいたるまで、その狭隘なナショナリズムを判例と憲法改正レファレンダムによって克服しつつ、世界、とりわけヨーロッパに開かれた「普遍的人権・自由」と「民主主義」の基本憲章として今も国民の厚い支持を得ているといえよう。
|
Research Products
(1 results)