2002 Fiscal Year Annual Research Report
国際ビジネスにおける多層的契約構造の進展についての法律学的研究
Project/Area Number |
14520038
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
斉藤 彰 神戸大学, 法学研究科, 教授 (80205632)
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Keywords | 国際ビジネス / 契約 / 多層構造 / 法廷地選択条項 / 準拠法選択条項 / リスク回避 / 周辺的合意 |
Research Abstract |
国際ビジネスが、契約の多層構造によって展開されるプロセスを解明するのが本研究の主目的である。本年度は、欧州での調査及び文献の研究により、理論枠組みの構築に一定の成果があった。 契約の予備的展開の中には、Letter of Intentのように別個の合意として認知されつつあるものも存在する。また、契約の核は当事者による価値交換の実現であるが、それと様々な形で関連する合意が周辺に張りめぐらされる。すでに独立性が認められた担保や保険、不履行の定義や自力的救済方法の定め、履行完了の第三者による確定、救済の実質的内容や計算式の定め、契約のギャップを埋める手段の予めの合意、などである。これらの多くは、契約の主目的とは直接に関係せず、契約が本来の軌道から逸れた場合に備え、被害を最小限に食い止める工夫である。その一方法として、取引のグローバル化に伴い、法廷地選択条項及び準拠法選択条項が一般化し、特に電子商取引などで消費者保護との関係で困難な問題を提起している。 このように当事者達は入念にリスク回避の努力をしている。これらの工夫は法制度として定着する場合もあれば、実務レベルに止まる場合もあり、実務による規範の生成という点から、興味深い観察対象を提供する。しかし、契約ユーザの立場からより重要なのは、目的実現を支える合意と、それが妨げられ場合のリスクに対応する周辺的合意とに、合意の多層構造を分解し、再整理することであろう。契約ユーザの視点から、契約に組み込み可能な様々なオプションを、その使用目的に添って再配列することで、法制度的論理で構成された従来の契約法体系ではなく、ビジネス目的から再構成された、実践ツールとしての、もう一つの「契約像」を描き出せる可能性がある。本年度中に公刊できなかったのは残念であるが、こうした視点から、実務の知見を取り入れた論文を現在執筆中である。
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