Research Abstract |
第一に,昨年度までの研究成果である職務発明に対する補償金算定のありかたについて,理論を完成させた。その成果に関しては,本研究の研究代表者である田村が編者の一人となり,共同研究者である柳川が共著者の一人となった,田村善之=山本敬三編『職務発明』(有斐閣)として,4月初めに刊行される予定である。 本研究の成果は,(1)特許法35条の趣旨に鑑みると,補償金の金額は従業者と使用者に発明活動に対する適切なインセンティヴを与えるべきものであること,(2)資産効果を考えると,絶対額が大きくなった場合には従業者に配分する割合は低くなってもよいこと,(3)発明者である従業者以外に組織内で発明に関与する者に対してインセンティヴを付与するためには,資産効果が原因で発明者に対するインセンティブの付与にあまり効果がなくなっている分については使用者に留保しておき,そこから市場(この場合は雇用契約のこと)を通じて他の関与者に配分させたほうがよいこと,など多岐にわたる。 成果中,(1),(2)は著名な青色発光ダイオード事件の控訴審が出した和解勧告案にも影響を与えたものと自負している(研究代表者は私鑑定の形で,当該事件に意見書を提出している)。また,(3)は,市場と法の役割分担に関する具体例を提供するものであり,本研究が新たにとりかかる他のテーマにもつながる広がりのある成果であるということができる。 第二に,新たに,市場と法の役割分担という視点で,バイオ産業における適切な特許発明の保護適格性の設定に関する研究に着手した。米国では,ヴェンチャー企業と大手製薬メーカーが役割分担を行ってバイオ関係の創薬について顕著な成果をあげている。その要因は経済学的にみるとどこにあると考えるべきなのか,法としてはこうした分業体制を受け入れて,それをかき乱すことのないように特許権の保護のあり方を考えるべきではないか,という観点から,共同研究に着手している。来年度中には具体的な成果を世に公表する予定である。
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