Research Abstract |
第一に,知的財産法と経済学の総論を構築することを試みた。 具体的には,8月に,田村,柳川に加えて,神戸大学の島並良助教授等を北海道大学に招聘し,田村が拠点リーダーをつとめる北海道大学法学研究科COEの事業推進担当者や研究員とも連携を図りながら,知的財産法と経済学のスタッフ・セミナーを挙行した。 その成果は多岐にわたるが,特に,権利の設定の在り方に関し,知的財産の創造の成果物が未だ商品化に至らない早期の段階で権利設定を認めることが,同一の知的財産の創作に関する事後のレント・シーキングを防ぐことになるとともに,市場を活用した効率的な知的財産の活用を容易となる旨を説くprospect theoryが一面的に過ぎ,早期に権利付与をすることでかえって事前のレント・シーキングを誘発しかねないこと,コースの定理が完全に成立しない以上,知的財産権という排他権自体がコストとなるという負の側面にも思いいたす場合には,一概に結論を得ることはできず,むしろ権利の種別や産業別に各論で考えていくべきであるという知見を得ることに成功した。 また,アンチ・コモンズやパテント・シケット等,知的財産を設定することによる負の側面に関する理論的な研究についても目を配った。 第二に,以上の総論を各論に応用し,具体的な成果に結びつける作業を進めた。 その結果,成果の創造に関して上流のヴェンチャーと下流の大手製薬会社との分業体制が確立しているバイオ産業の特殊性に鑑みれば,類型的に上流から下流へと取引される程度に成果が具体化している場合には特許の保護を認めるべきであるという結論を得た。その成果は,知的財産法政策学研究12号(2006年5月刊行予定)に発表する予定である。 また,権利の消尽理論と特許制度のありかたに関して,方法特許の消尽や,修理と再生の問題を扱ったインクカートリッジ事件知財高裁判決について,消尽を否定し特許権者が消耗品から対価を取得することを認めたほうが,価格差別を可能とするから望ましいという議論をいかに評価するのかという角度からの研究を行った。その成果は,近く商業雑誌で公表する予定である。 この他,職務発明制度について,資産効果を考慮に入れた場合,組織と法の役割分担という視点に鑑みると,金額が大きくなるにつれて従業員に補償金として帰属させるべき割合は低下してよいとする前年度までの成果を応用して,青色発光ダイオード事件控訴審和解勧告を検討し,その評価を,知的財産法政策学研究8号に掲載するなどの活動をなした。
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