十九世紀日本における日用百科書による礼法知識伝播についての政治社会学的研究

2003 Fiscal Year Annual Research Report

• Project/Area Number: 14520095
• Research Institution: KYOTO UNIVERSITY
• Principal Investigator: 横山 俊夫 京都大学, 地球環境学堂, 教授 (40027553)
• Keywords: 節用集(せつようしゅう) / 大雑書(おおざっしょ) / 安定化 / 文明史 / 風雅 / 自足 / 諧謔 / 異端

Research Abstract

調査研究面(以下、1)と、理論研究面(以下、2)で、次の実績をあげた。
1、畿内については、和歌山県立文書館寄託の高橋家(旧郷士)大雑書や尾嵜家(旧神職)蔵書目録などを調査。東北では、福島県歴史資料館寄託の佐藤庄吉家(旧名主)や安井滋夫家(旧二本松藩側用人)の各節用集、内池輝夫家(旧豪商)蔵書目録の調査。江戸関係では、東北大学の漱石文庫中の大雑書を調査。九州では、九州大学蔵の大雑書、節用集類の調査。福岡県立図書館寄託の寿明院(当山派修験)文書中の関連文書調査を実施。
海外では、大英図書館蔵のE.ケンペル、E.サトウ、Ph.シーボルト旧蔵の大雑書、節用集を調査。また同図書館が19世紀中期に収書した大冊『江戸大節用』4点、スローン文書中のケンペル筆Colloectanea Japonica(今村源右衛門補助/節用集、王代記、和玉篇、大雑書などによる日本文化研究備考)の調査を遂行。
特筆しうる発見は、寿明院文書中、住職上京時に檀家依頼の上方買物備考に節用集が含まれていたこと、海外流出の大冊節用集、大雑書類の下小口手沢相が、国内残存のものと大きな差異を示し、はからずも同出版物の国内における強力な文明化機能の傍証を得たことである。
2、(1)大雑書による社会安定化機能の核が、五行(木火土金水)相生相剋思想の強さにあることを確認。とくにそれによる日選や相性占の根強さがもつ、東アジア特有の、また或る程度まで多神世界に共通の、文明史的意味を考察。
(2)節用集の字引部分本体が伝えた雅俗弁別意識の解明(とくに山本序周編諸版の重要性の発見)。
(3)大冊節用集の下小口の手沢相に示されたいくつかの生活類型のうち、現世の風雅を希求するか、来世を思慕するかの二大類型の存在が重要であったことの確認。
(4)前者の社会上昇意欲と後者の分限相応自足流の共存には、節用集、大雑書の広範な浸透と同時に、それらへの拘泥を揶揄する諧謔精神も広まり(代表、式亭三馬)、異端として排除されなかった事情が関わることを発見。
以上4点を'Experiencing a Sustainable Society…'にまとめ、11月14日、オックスフォード大学客員セミナーで発表、十名あまりの研究者と意見交換した。

Research Products

• [Publications] YOKOYAMA, Toshio: "Experiencing a Sustainable Society - Thoughts on the Civilising Role of Setsuyoshu and Ozassho, Two Popular Household Encyclopedias in Premodern Japan"Sansai, Journal of the Grove of Universal Learning. (Kyoto University). 1(仮). 1-19 (2004)