2002 Fiscal Year Annual Research Report
制度経済学の理論的パースペクティブ―企業論における情報、知識、組識能力の視点から―
Project/Area Number |
14530014
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
磯谷 明徳 九州大学, 大学院・経済学研究院, 助教授 (60168284)
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Keywords | 契約論アプローチ / 能力論アプローチ / 進化論的企業論 / 知識 / 学習 / ミクロ・マクロ・ループ / ビジネス・アーキテクテュア / システムの多様性 |
Research Abstract |
本研究課題の目的は、1970年代後半以降に、経済学における主流・非主流を問わず新たな形での復活を遂げてきた多様な制度主義経済学の諸潮流を総括する作業を試み、経済学における新たな研究プログラムとしての制度経済学の理論的パースペクティブを明らかにすることにある。特に本研究では、経済主体の認知過程における情報、知識、そして学習に関わる諸問題を再度取り上げるとともに、企業組織というより具体的なレベルに特化して、企業組織における知識の調整と知識の学習とその蓄積に関するより進んだ考察と検討を行うことに焦点を絞る。研究の初年度である本年度においては、企業組織における知識の調整と知識の学習とその蓄積に関する企業組織へのCapability ApproachやCompetence Approachといった新たな研究動向を、主流派経済学における取引費用アプローチや契約論的アプローチ、さらにはネオ・オーストリアンやネオ・シュンペータリアンにおける企業論との異同を明確にし、制度経済学、あるいは企業の制度分析におけるその位置づけと性格づけを明確にするという作業を行った。この課題については、2002〜2003年にかけての2つの論文において、現代経済学における企業組織分析の2つの大きな流れである企業への契約論アプローチと能力論アプローチを取り上げ、これらの2つのアプローチの評価とその限界を明らかにし、そうした考察を踏まえた上でのよりリアリティのある企業論・企業組織分析に向けてのいくつかの提案を行った。その第1は、利害関係・情報(知識)・学習の3つの要素すべてを包含する企業モデルの構築が必要だということである。これは、企業への契約論アプローチと能力論アプローチ双方の限界を克服し、両アプローチの統合を可能にする1つの方向性を示唆するものといえる。第2は、企業組織をめぐるミクロ・マクロ・ループの問題を明示的な検討課題とすべきだということである。これは、いずれのアプローチも、企業と、その外部にあって、それを取り巻くマクロ経済環境との相互規定的な関係を分析するための道具立てを持っていないか、そうした議論の企てがあったとしても不十分なままであるということに起因する。第3は、企業への能力論アプローチは進化論的企業論の理論的基礎づけを与えるものとして構想されるものであるが、コンピタンスベースの企業論とアーキテクテユアベースの産業論を総合した議論を行うことにより、真に「進化論」な企業組織分析への接近が可能になるというものである。 なお本研究課題の密接に関連した副産物として、2003年刊行の図書の中に所収の論文がある。これは、雇用システムの進化と多様性に関する諸問題を、制度経済学的観点から議論したものである。
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Research Products
(3 results)
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[Publications] 磯谷明徳: "知識・制度・組織能力-企業論の視点から-"進化経済学会論集. 第6集. 264-275 (2002)
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[Publications] 磯谷明徳: "企業組織への契約論アプローチと能力論アプローチ"経済学研究. 69・6(発表予定). (2003)
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[Publications] 佐藤良一編(共著): "市場経済の神話とその変革-<社会的なこと>の復権-"法政大学出版局. 435 (2003)