2003 Fiscal Year Annual Research Report
経済成長の要因における実証的研究:アジア新興工業国と東欧移行経済国の比較分析
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14530058
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
大坂 仁 九州大学, 大学院・経済学研究院, 助教授 (90315044)
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Keywords | 経済発展・経済成長 / 応用計量分析 / 生産性計測 / アジア通貨危機 / 国際資本フロー |
Research Abstract |
1997年にタイで発生し東アジア地域に広がった通貨危機は、それぞれの当事国の経済システムの脆弱性を露呈することになった。これは高い成長力を示してきた途上国においてさえ、国内貯蓄を上回る投資に関して過度に国際資本フローへ依存することの危険性を示したといえよう。これまでの高い経済成長の実績、またはそれによって示唆される潜在成長力により東アジア地域では国際資本フローが増大してきたが、通貨危機直後はその流入額が減少したことはいうまでもない。本年度の当該研究においては、まず国際資本フローの観点から東アジア地域における通貨危機の及ぼした影響を考察し、今後の経済成長を展望するとともに、わが国の果たすべき役割を検証した。 また、アジア通貨危機の経済的影響に関する検証では、これまであまり顧みられることがなかった生産性の問題に焦点をあてて国際資本の役割について考察した。成長会計を用いた分析では、通貨危機以前から韓国・タイ・フィリピンでTFP(全要素生産性)の上昇トレンドが認識され、また回帰分析からはこれらの国におけるこれまでの経済成長に対する投資の重要性、さらには投資と国際資本フローとの間の密接な関連性が示されることになった。これらを合わせて考えると、継続的な投資および経済成長には安定的な国際資本フローが重要であり、そのためには好ましいマクロ経済環境が必要ということになる。これらの結果より、通貨危機によって大きな影響を受けた東アジア諸国の今後の経済回復には、通貨危機によって低下した投資が危機以前の水準まで回復する必要があるとする先行研究(Barro,2001)と同様の主張が再確認されたといえる。 なお、国際資本フローは海外直接投資などの民間資本フローと政府開発援助などの公的資本フローに分類されるが、通貨危機後も東アジア地域では相対的に民間資本フローの比重が高く、今後の更なる経済成長へは引き続き通貨危機以前と変わらぬ民間資本フローの流入が重要となろう。これに関連して日本のODAを検証してみると、依然として東アジア地域へのODAが最も多く、東アジア諸国の中にはこれまでの急速な経済成長を背景として1990年代に増大した民間資本フローの恩恵を大きく受け、なおかつ援助への低い依存率を示すとともに通貨危機後は多くの外貨準備を備えている国も少なくない。こうした現状および主要援助国の動向を鑑み、貧困削減のために援助が特に必要とされるアジアのLLDCsへ日本からのODAを如何に増大させていくのか検討していくことも国際的な視野から重要事項の一つであると考えられる。
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Research Products
(5 results)
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[Publications] 大坂 仁: "途上国の経済成長予測と日本のODA:国際資本フローからの考察"第14回国際開発学会全国大会報告論文集. 141-146 (2003)
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[Publications] 大坂 仁: "日本ODAの再考:国際資本フローと主要援助国の動向に関する記述データからの考察"九州大学(大学院経済学研究院)ディスカッションペーパー. 2004-2. 49 (2004)
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[Publications] Osaka, Hitoshi(Bende-Nabende, Anthonyとの共著): "Chapter 4 The impact of the Asian financial crisis : a perspective from productivity analysis(International Trade, Capital Flows and Economic Development in East Asia : The Challenge in the 21^<st> Century)"Ashgate Publishing Ltd.(所収). 217(22) (2003)
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[Publications] 大坂 仁(堀江康煕との共著): "第9章 東アジアの国際資本移動(現代金融の経済学)"日本評論社(所収). 257(19) (2003)
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[Publications] 大坂 仁(大住圭介・堀宣昭との共著): "第7章 アジア通貨危機と海外資本:生産性計測からの考察(グローバリゼーションと地域経済・公共政策 2)"九州大学出版会(所収). 256(28) (2003)