2003 Fiscal Year Annual Research Report
X線CTおよび連続組織切片を用いたデスモスチルスの成長様式と生活史の研究
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14540442
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Research Institution | National Museum of Nature and Science, Tokyo |
Principal Investigator |
甲能 直樹 国立科学博物館, 地学研究部, 主任研究官 (20250136)
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Keywords | 歯の組織発生 / X線CT解析 / 成長様式 / 生活史 / 束柱目 / デスモスチルス |
Research Abstract |
本研究は,中新世前期〜中期にかけての北太平洋沿岸に生息していた絶滅海生哺乳類のデスモスチルスについて,頭蓋および下顎骨標本に殖立する歯の発生・萌出・交換の様式および歯の微細組織に残された成長線の解析に基づいて個体そのものの成長様式と生活史を実証的に復元することが目的である. 本年度はアメリカ合衆国国立自然史博物館所蔵の頭蓋標本3点と下顎骨標本5点について昨年度完了できなかった部分の肉眼観察を追加して行ない,乳臼歯列を持つ頭蓋標本1点と下顎骨標本1点を昨年度に追加して高解像度X線CTによる断層写真撮影を行なった.それぞれについて,歯種と発生段階の決定を行ない,デスモスチルス類に対する最も合理的な歯式と歯の萌出・交換様式をほぼ決定した. 本年度の研究の結果,歯種に関しては成獣の切歯は上顎に0本と下顎に2本,犬歯は上顎に0本か1本(種間差)と下顎に1本,前臼歯は上顎に1本か2本(個体変異)と下顎に1本,臼歯は上下顎にそれぞれ3本であったことが明らかとなった. CTスキャンデータに基づく歯種と萌出の順序から,上顎では第3乳臼歯と第4乳臼歯はそれぞれ前臼歯と垂直交換し,萌出の順序は第4前臼歯に対して第3前臼歯が著しく先行することが明らかとなった.また,上顎第1臼歯は第3前臼歯とほぼ同時期に萌出をはじめるため,第4前臼歯は前後の歯に対して萌出が著しく遅滞していることが示唆された.下顎では第3乳臼歯は交換が起こらず比較的早期に脱落し,第4乳臼歯のみが前臼歯と交換することが明らかになった.また,第3前臼歯が存在しないことが,第1臼歯の萌出と機能維持に大きな意味を持つことが示唆された. 以上から,デスモスチルス類に認められる頬歯の逐次的萌出と一生歯性への傾向は,上下顎の第4前臼歯の発生と萌出が一般的な哺乳類に見られる交換様式から著しく外れて遅延することに起因して生じたことが強く示唆された.
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