2004 Fiscal Year Annual Research Report
X線CTおよび連続組織切片を用いたデスモスチルスの成長様式と生活史の研究
Project/Area Number |
14540442
|
Research Institution | National Science Museum, Japan |
Principal Investigator |
甲能 直樹 国立科学博物館, 地学研究部, 主任研究官 (20250136)
|
Keywords | 歯の組織発生 / X線CT解析 / 成長様式 / 生活史 / 束柱目 / デスモスチルス / 雄雌差 / 生体イベント |
Research Abstract |
本研究は,中新世前期〜中期にかけての北太平洋沿岸に生息していた絶滅海生哺乳類のデスモスチルスについて,頭蓋および下顎骨標本に殖立する歯の発生・萌出・交換の様式および歯の微細組織に残された成長線の解析に基づいて,この仲間の個体の成長様式と生活史を復元することが目的である. 本研究の最終年度である本年度は,国立科学博物館およびアメリカ合衆国国立自然史博物館所蔵の頭蓋標本2点について,頭蓋のX線CTスキャンを用いた断層写真解析と歯の肉眼観察を行なった.その結果,これらが同一種の雌と雄の成獣であると判断されたと同時に,これまで検討対象としてきた頭蓋14標本のうち10標本についてもこれを基準として雌雄の別が判断された.雌雄差は,頭蓋のプロポーションと犬歯および臼歯の大きさで明確に区別でき,雌と判断された個体の中には,第2および第3臼歯の硬組織内に生理的な変化を示すと思われる線条が残されている個体も認められた.一般に歯の硬組織に残される線条には,出生,離乳,出産,疾病などの生理的生体イベントと対応関係を持つものがあるとされるが,本研究においてデスモスチルスの性別と相対年齢を明らかにできるようになったことから,個体の成熟後も歯の発生が継続するデスモスチルスの雌の成獣では,第2・3臼歯に認められる線条が繁殖に対応している可能性が示唆された. 本研究では,X線CTスキャンを用いた非破壊的方法により,知られているすべての若齢個体の頭蓋標本で乳歯と代生歯との関係を確認できたとともに,乳歯を持つ個体に関してはそれぞれの歯種に対して未萌出の代生歯の有無と成長段階との関係を確認できたので,これまで問題となってきた歯種判断の混乱の解決に加えて,発生のタイミングに基づいた機能歯の歯種とその組み合わせおよび成長段階との関係を初めて実証的に明らかにできた.また,雌雄差の判断が行なえるようになったことから,雌と判断された個体に繁殖などの生理的な生体イベントと対応すると思われる組織学的証拠を見いだすことができた.
|