Research Abstract |
表面改質技術の一つである溶射技術は,防食,防錆から装飾を目的としたものまで,一般に広く用いられている.その中でも自溶合金溶射,とりわけNi基自溶合金溶射による皮膜は耐摩耗性,耐食性,耐熱性に優れ,製鉄,自動車から機械部品,ボイラーチューブなど広く利用されている.この自溶合金溶射皮膜は,皮膜形成後,フュージングと呼ばれる再溶融処理を施すところに特徴がある.しかしこの再溶融処理によって,皮膜側から母材側に浸炭がおこり,接合界面に浸炭層が形成することが実用上問題となっている.そこで本年度は,これまで得られた化学ポテンシャル勾配によるCの拡散現象についての知見をNi基自溶合金へ適用し,母材への浸炭について,C原子の拡散挙動をシミュレーションすることにより考察し,浸炭の抑制について検討した.その結果以下の結論が得られた. (1)Ni基自溶合金溶射皮膜の形成上問題となる,フユージング時におこる浸炭現象をJIS1種,4種の皮膜について再現することができた. (2)Ni基自溶合金にNbを添加したが,母材への浸炭を抑制することができなかった.これは炭化物形成元泰として期待されたNbがほう化物を生成し,浸炭の駆動力であるCの化学ポテンシャルの低下に影響しなかったためである. (3)Ni基自溶合金にTiを添加することで,母材への浸炭が抑制されることを予測できた.また皮膜へのC原子の拡散に伴い,TiCがより晶出することが予測され,これは硬度や耐摩耗性に乏しいJIS1種皮膜に対して有用である.
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